3 Lines Summary
- ・爆弾ってあんなに降ってくるんだ
- ・クラウドファンディングで「この映画はつくって大丈夫だ」と感じた
- ・怪獣映画もやってみたい
昨年末の公開から大ヒットを続けるアニメーション映画「この世界の片隅に」。片渕須直監督本人に、その作品の魅力を聞いたインタビューを前後編に分けて掲載。
前半では、原作との出会いから、作中に描かれる日常生活のこだわりについて。
後半では、戦争の表現から、キャスティングや次回作の展望などを伺う。
爆弾ってあんなに降ってくるんだ
B29は、爆弾を何発積んでて、どういう手順で落として、それはどういう風に落ちていくんだろうとか、爆弾一つが落ちたらどれぐらいの威力があるんだろうとか、ひとつひとつ細かく描いていると、戦争のある一局面がそっくり再現されるんだろうと思っていました。でも、それが再現された映像を見たときは、本当に怖くて仕方なかったですね。爆弾って、人間を殺すためあんなに降ってくるものなんだなと。生き物としての自分が否定されているみたいな恐怖がありました。
軍艦が戦闘機を撃つシーンで煙にいろんな色がついていたのも本当の事なんですよね。
日本の軍艦は、自分の打った砲弾が分かるように色を付けていたんです。映画の舞台が呉ですから、たくさん日本の軍艦が港にいるところにアメリカの飛行機がやってくると、いろんな色の煙が空に広がったんです。
それを見た、すずさんがきれいに書きたいと思うのは悲しいというか…
でも、自分の親に聞いても、B29はキラキラしていてきれいだったと言うんです。非日常なものが来た時、怖いという気持ちよりも前に、非日常であること自体に見とれてしまうんじゃないかなと思うんですね。まるで花火のようだとか、すごくキラキラしているとか、そういうふうに見てしまうんじゃないかと思うんですね。
ボクはこの映画に携わるまでは呉の事を全く知らなかったんですが、繰り返し繰り返し空襲にさいなまれてて、本当にいたたまれない感じがします。もちろん東京や名古屋とか、もっと頻繁に空襲があった場所はありますが。
おばあちゃんの広島弁にそっくり
主人公である すずさんの声を演じた「のん」さんをどうやって選んだんですか?
すずさんの声を誰にやって頂こうかなと思ったときに、ボクは「のん」ちゃんしか考えられませんでした。
もちろん、他の方も一生懸命探していろいろ声を聞かしていただいても、やっぱり「のん」ちゃんがすずさんにぴったりというか、「のん」ちゃんがやると、すずさんがリアルな人として浮かび上がってくるような気がしたんです。
「のん」ちゃんは、人に笑っていただくコメディーも自分の芝居の1つだとはっきり位置づけています。若い女優さんで、笑っていただこうという姿勢を持っている人はなかなかいないですからね。そういう意味で「のん」ちゃんはすずさんとマッチもしていましたし、普段のホヤ~としている雰囲気もマッチしていた気がします。それで、本人に興味あるかどうか原作の本を渡して読んでもらったら、「すずさんをやりたいです」と意見が一致したんです。
すずさんを演じるときは、とにかく格好つけないようにしましょうと、できるだけ「のん」ちゃんの普段の感じを出してほしいと言いました。ボクも広島出身じゃないし、「のん」ちゃんも違うので、スタジオには、広島出身の役者さんを2人くらい常に入っていただきました。さらに呉出身の方にも「いいからここにいてください」と言って、たくさんの広島の声のムードみたいなものをスタジオの中に充満させていましたね。出来上がったものを広島の方に聞いていただいたら、「のん」ちゃんがしゃべっているすずさんのセリフが「うちのおばあちゃんの広島弁とそっくりだ」と言っていただきました。
クラウドファンディングで「この映画はつくっても大丈夫」だと思った
今回、クラウドファンディングで製作資金を集めたことをどう思っています?
やはり我々のやりたいことが信用されていないから資金集めが難しかったんですよね。ボクたちは、こういうことをやれば、たくさんのお客さんたちが振り返ってくれると思っていたんですが、それに対して過去の実績があるのかという事を問題にされていたようです。でも、インターネットで一般の方々からで直接支援を募るクラウドファンディングを使ったことで、たくさんの応援の声に気づいて「この映画はつくっても大丈夫だろう」という事になったんです。アニメーション映画などに関して言えば、あらかじめファンや期待してくださる人々の声などが多いことが分かっていれば、クラウドファンディングに頼る必要はないのかなとも思います。
大事なのは作り手であるボクらと、映画を送り出す立場の方たちと、実際に映画をご覧になるお客さんたちとの相互関係がうまくいっていればよいということです。こういうお客さんの期待があるから映画を作るのだ、と企画を進めていけるのなら問題はありません。それが夢みたいな話だと思われないですむようになったと思います。
ヒットの予感はありました?
映画を作る人は「自分が作るものは、きっと皆さんに受け入れていただける」と思ってやっているんですね。そんな夢を見ている仕事なんですが、その夢が正夢になってきているという感じはします。
怪獣映画もやってみたい
『この世界の片隅に』は、自分でこれをやりたいと言って、取り上げていただいて、ちゃんと映画になった初めての企画なんですよ。やはり自分がやりたいと思った気持ちを、貫いてよかったなと思いますね。この映画が、お客様に支持していただけるようになって初めて、今まで自分が心の引き出しの中に溜めていた他のやりたいことも「ひょっとしたら出してもいいのかな」と思えるようになりました。
怪獣ものもやりたいですね。『この世界の片隅に』の冒頭にオバケみたいなものが少し出てくるんですが、そういう優しいオバケの話も、やりたいと思ったこともありますし、もっとハードな世界もやってみたいと思ったこともあります。ずっと「ああいうこともやりたい、こういうこともやりたい」と思いながら生きてきたんですね。それが自分の引き出しの中に山になっている感じです。
ちなみに怪獣ものを撮るならどんな内容になるんですか?
内緒です。
1月25日放送「ホウドウキョク×GOGO」より
インタビューを動画で見る→
https://www.houdoukyoku.jp/archives/0008/chapters/27041
インタビュー前編はこちら→
https://www.houdoukyoku.jp/posts/6665