本と出会い、新しい世界の窓が一つ開く。動いた心を感想の文章にこめる。また見えるものがある。
第62回青少年読書感想文全国コンクール(公益社団法人全国学校図書館協議会、毎日新聞社主催)には、海外日本人学校も含め2万6077校が参加、437万6313編の応募があった。きょう東京で受賞者の表彰式が開かれる。
子供たちが抱き、表現した感動はさまざまだ。
中学校の部で内閣総理大臣賞に選ばれた秋田県・横手北中2年、伊藤紬(つむぎ)さんは「白いイルカの浜辺」(評論社)を読んで「読み終えた私の心に、嵐が去った朝の海のような、穏やかな安らぎが広がった」と書いた。
家庭、社会のあつれき、そして世界にまたがる環境破壊という厳しい現実や難題に向かいながら生きる主人公の少女。伊藤さんは自分と重ねて読み、勇気をもらった。
千葉県・津富浦(つぶうら)小学校では、課題図書の「ここで土になる」(アリス館)を5年の道徳で活用した。
曲折する国のダム計画に翻弄(ほんろう)され、集落が消滅しても土地を愛し暮らし続ける山村の老夫妻。読後、子供たちから夫婦に感想の手紙を送りたいという声が担任の先生に寄せられ、全員が書いて送った。生き方に感動するものや、ダム計画の理不尽を批判するものもあった。
今読解力低下が指摘される中、学校教育は、討論や調べ学習などを通じて主体的な思考力を養い、表現力を備えた探究型学力育成を目指す。「アクティブ・ラーニング」だ。
グローバル化時代や人工知能(AI)社会に対応できる人材を目標に置くという。読書や資料調べなどが重視され、学校図書館は今以上に要の機能を担うだろう。
しかし、支える備えはまだ十分ではない。例えば、蔵書・資料の整理や活用、調整などに必要な職員「学校司書」。法は各校配置を努力義務としているが、文部科学省の2016年度調査によると、小、中学校とも4割が配置していない。
一方、読み聞かせなど地域のボランティアの活用は小学校の場合、8割を超え、本好きの子供を育てるのに役立っている。
楽しくする工夫も多様だ。
読んだ本の面白さを語り伝える「ブックトーク」、お薦め本の展示などのほか、本の魅力を短時間に語りで売り込み、聴衆の支持を競う「ビブリオバトル」もある。
本を読んだ後、抱いた思いを練りながら書くことは、実はその作品を深く読み直す行為でもある。そうして作品はしっかり心に根を下ろし、生涯の友になる。
読書感想文の真骨頂もそこにあるのだろう。