AWSを追い上げる“黒船”が日本上陸、中国でシェア5割を超える「Alibaba Cloud」の実像
2017.01.24ソフトバンクグループが2016年12月、新たなパブリッククラウドサービスの提供を開始しました。そのサービスの実態は、中国のAlibaba(アリババ、阿里巴巴)傘下のAliyun(阿里雲)が提供する「Alibaba Cloud(アリババクラウド)」です。中国では既にシェア50%を獲得しているといいます。米国勢が先行するクラウド市場ですが、Alibaba Cloudは、どんなクラウドサービスを提供しているのでしょうか。
売り上げ規模は2015年に世界第5位
パブリッククラウド、不特定多数の利用者に汎用的なコンピューティング環境を提供するサービス。米Amazon.comの「AWS(Amazon Web Services)」を筆頭に、米Microsoftの「Microsoft Azure」や米Googleの「GCP(Google Cloud Platform)など米国勢が先行しています。各社とも日本での利用者層の拡大に向けて、日本国内にもデータセンターを置くなどサービスの拡充を図っています。一方で中国発のAlibaba Cloudについては、他の中国発のサービス同様、日本ではあまり知られていません。
Alibaba CloudはAliyunが提供するパブリッククラウドサービスです(動画1)。顧客企業には、中国企業だけでなく、蘭フィリップスやスイスのネスレ、仏シュナイダーエレクトリックといったグローバル企業が名を連ねています。その売上規模は、調査会社の米IDCによれば、2015年時点で世界第5位。2016年7月〜9月の売上高は前年同期比30%増の 14億9300万元(2億2400万ドル、およそ250億円)でした。投資銀行のモルガン・スタンレーは、中国のパブリッククラウド市場におけるAlibaba Cloudのシェアは2016年に50%に上り、2020年の売上高は87億2000万ドル(およそ1兆円)になるとみています。別の投資銀行のゴールドマン・サックスは、2019年に売上高が50億ドル(5700億円強)になり、クラウドインフラ市場ではAWSに次ぐ第2位にまで成長すると予測しています。
動画1:Alibaba Cloudを紹介するイメージビデオ
単に売り上げ規模が大きいだけでなく、技術面でも高いものを持っています。例えば、中国では毎年11月11日は「独身の日(ダブルイレブン)」とされ、ECサイトでは特別セールが実施されます。2016年の独身の日には、Alibabaだけで総売上高は2兆円に迫りました。この時のECサイトが動作している基盤がAlibaba Cloudで、ピーク時には每秒17万5000件のトランザクション(取引)を処理しています(関連記事『中国「独身の日」、アリババの売り上げ約1.9兆円を支えた注目の“数字”』)。この数字は世界最大で、取引の取りこぼしもないことから信頼性も高いクラウドサービスだと言えます。
これらを可能にしている「Aspara」と呼ぶ分散処理の仕組みはAliyun自身が開発したものです。2013年8月時点では5000台のサーバーがクラスタ状に接続されていました。技術開発には力を入れており、最近は大規模データベースと先進的なビッグデータ処理技術を中核に、IoT(モノのインターネット) やVR(仮想現実)、スマートホーム、自動運転のためのネットワークといった技術の研究開発にも取り組んでいます。
誕生は2010年、グローバルにサービスを展開
Alibaba Cloudが初めてサービスを開始したのは2010年5月のこと。サーバー機能の「ECS(Elastic Compute Service)」からでした。2013年にはAlibabaが提供するネットサービスのすべてがAlibaba Cloud上で動作しています。2014年からは、中国内および海外でのデータセンター開設を加速し、グローバル化を図っています(動画)。2014年は、4月に北京に、同年8月に深圳に、それぞれデータセンターを開設。2015年は8月にシンガポールに、10月にはシリコンバーレーに2つ目のデータセンターを、11月には香港にも2つ目のデータセンターをそれぞれ開設しました。シンガポールへのデータセンター設置と同時に、同地をAlibaba Cloudの海外本部にしています。
動画:杭州市の千島湖にあるデータセンターの紹介ビデオ
2016年に入ると、4月に韓国のSK Holdingsと提携、6月にはシンガポールに2つ目のデータセンターを開設したほか、ドバイや独フランクフルト、豪シドニーにもデータセンターを置きました。これらの海外データセンターの開設では、基本的に現地企業とパートナーシップを結ぶことで短期間でのサービス開始を実現させています。そして、日本におけるパートナーに選んだのがソフトバンク。5月にソフトバンクとの合弁会社として「SBクラウド」を設立。11月には日本のデータセンターを開設し、12月からサービスを開始したというわけです。日本を含めAlibaba Cloudのデータセンターは世界に14拠点になっています(図1)。
図1:2016年末時点のAlibaba Cloudのデータセンター拠点
データセンターといった施設面でのパートナーシップと並行して、サービス拡充のためのエコシステム構築にも余念がありません。「AliLaunch」と呼ぶ各種サービスのマーケットプレースがそれで、ERP(基幹業務システム)大手の独SAPや、LinuxOSを提供する独SUSE、地図サービスの独HERE、セキュリティの米Check Point、Google Cloudで開発したアプリケーションを他のサーバー上で動作可能にするオープンソースソフトウェアを開発する米AppScaleなどのソフトウェアが持つ機能をAlibaba Cloudからサービスとして提供しています。
「最もシンプルで低廉な価格」を約束
日本市場に向けたサービスの第1弾は2016年12月15日から提供がはじまっています。IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)に分類される、サーバーやストレージの機能が中心です。具体的には、仮想サーバーのECSと、データベースサーバーの「ApsaraDB for RDS」、そしてオブジェクトストレージの「Object Storage Service」などの機能を検証やWebサイト運用といった用途別に組み合わせて提供します。いずれの組み合わせにも、クラウド上のデータを守るために基本的なセキュリティーサービスである「Anti-DDoS」が含まれています。
SBソフトバンクのホームページには、「最もシンプルで低廉な価格のクラウドを実現いたします」という「お約束」が掲載されています(図2)。例えば、検証用とされる最小構成のサービス「Super Light」の利用料金は月額使用料は1200円から。1CPUで1ギガバイトのメモリーを持つ仮想サーバーと40ギガバイトのディスク容量、2テラバイトまでのデータ転送を利用できます。Webサイトからの設定で、最短60秒で仮想サーバーが起動するとしています。
ソフトバンクはこれまで、日本のインターネット接続サービスや携帯電話サービスなどで先鞭を付け、市場拡大のための価格競争なども仕掛けてきました(関連記事『英ARMの3兆円買収の衝撃、ソフトバンクのM&Aにみるパラダイムシフト』)。今後、Alibaba Cloudのサービスが、競合他社のサービス内容や利用料金が料金などに影響を与えるかもしれません。それだけにSBクラウドが今後、どんな動きを見せるのかが注目されます。
執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)
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