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潘基文はなぜ大統領への道を断念したのか? 韓国での評価が暴落した3週間を再現
国連の記者団との最後の懇談会で紹介された「退任後の潘基文」を演じた映像より
https://www.youtube.com/watch?v=Ix4D8IYLYGU
2016年12月31日まで国連事務総長であった潘基文(パン・ギムン)が大統領選への不出馬を宣言した。
世論調査では常に「次期大統領になってほしい政治家」1位の座にいたし、かつては彼を「韓国の誇り」と評価する報道も多かっただけに、まさかの展開である。
2017年1月12日、潘が大統領選出馬を宣言し、韓国に帰国して以降、何が起きて何が変わったのか。改めて追ってみよう。
まず初日。12日17時ごろ、空港で記者会見を開いた潘基文は車に乗らずに、電車でソウルに向かった。
「事務総長の任期を終え庶民になったのだから、電車に乗って市民と対話する」というのが理由だった。
電車に乗る前に潘基文が向かったのはコンビニ。ミネラルウォーターを買うためだった。あえてコンビニで水を買う姿をメディアに撮らせるためだったのだろう。
ここで最初の失敗をする。ついフランス産のエビアンを手にしてしまった。スタッフに「それは国産ではありません」と耳打ちされて、取り替えた様子が報じられてしまう。
いざ電車に乗る段になり、券売機にお金を入れるがうまく入らない。紙幣を一度に2枚入れていたためだ。これで電車の切符を買った経験がないのもバレてしまった。
潘基文側は「市民との対話」を電車に乗る理由としていたが、実際に乗る車両はスタッフが1両まるごと席を押さえていたため、彼が対話したのは記者だけだった。そもそも指定席を予約したのならば、どうして切符を買おうとしたのかも謎だった。
一番の大きな問題は「時間帯」だった。潘基文が記者会見を開いたのが17時ごろ。通勤ラッシュの時間だ。
案の定、電車がソウル駅に着いたら大騒動となった。人の多さでもみあいになり、脚立から落下したカメラマンもいた。
ソウル駅構内にいたホームレスらが、到着前に追い出されたことも明らかになった。
ネットニュースのコメント欄には「潘基文前総長、車で帰宅すればいいのに、市民に迷惑ではないですか」「庶民コスプレしようとして、一般市民が乗る空港鉄道を混ませて迷惑かけて、何が市民のためになるのかわかってないのでは」などの不評が次々とアップされた。
翌13日は、セウォル号事件の現場から近い港を訪問。まだ行方不明、つまり遺体が発見されていない乗客の家族を待機場所に訪ねたが、潘基文が家族に歩み寄るのではなく、地元議員が家族を1人ずつ潘のほうに呼んでは握手させた。この議員は待機場所にも2~3度ほどしか来たことがなく、家族の名前を間違えるミスも。
また後日、潘基文はこの家族らを「遺族」と誤って表現し、怒りを買う。訪問ノートにメッセージを書く際にメモを“カンニング”したことも目撃されてしまった。
14日は、地元である忠清北道の社会福祉施設に訪問。ここで療養院にいるお年寄りの女性におかゆを食べさせる写真が報道された。
この写真がネットでは騒動に。患者が横になったままで上半身が起こされていなかったからだ。これでは健康な人でもおかゆを飲み込むのは難しい。食べさせてないのではと指摘された。
18日には講演会に登場。韓国での若い世代の就職難について「就職できないのならば、海外に行ってボランティア活動でもすべき」と現実を知らない発言をし、顰蹙を買う。
このように、潘基文はパフォーマンスがいちいち逆効果になって国民を幻滅させていく。潘をめぐるニュースのタイトルには「1日1失態」という文言がつくようになったのだ。
親族から次々と疑惑が噴出
決定的なダメージとなったのは身内の不正だ。「ハンギョレ」などが報じた概要はこのようなものである。
1月10日、潘基文の弟とその息子(つまり潘の甥)が、ニューヨークの連邦検察によって収賄罪など11の嫌疑で起訴された。
潘基文の甥で不動産仲介業者のパン・ジュヒョンとその父親で同会社の顧問のパン・ギサンは、韓国企業がベトナムのビルを中東のファンドに売却するのを仲介。その際、中東の国の高官を名乗る者に50万ドル(約5600万円)の賄賂を渡したという嫌疑がかかっている。
韓国企業からパン親子は500万ドルの手数料を受け取る予定だったという。そして、自称高官は単なる詐欺師だったことも判明した。
起訴状によるとパン親子は中東のある国家首脳が国連会議に参加するためにニューヨークを訪問した際、売却交渉のために秘密裏に会おうと試みたという。
パン・ジュヒョンは同じ韓国企業がカタールと取引をした際にも仲介し、うまく進んでいるかのように見せるために契約書類を偽造したことで、59万ドルの罰金刑にも処されている。この韓国企業の会長は事業がうまくいかず、2015年に自殺している。
パン・ジュヒョンは仲介する際「潘基文総長を通じてカタール国王とも接触できる」と話していたとも報じられている。
さらに、パン・ジュヒョンは兵役逃れで指名手配されているという。
「ハンギョレ」の取材に対し、父親のパン・ギサンは「兄(潘基文)も息子が兵役の義務を果たしていないことを知っています。韓国に帰れないのは兵役の問題のため」と認めた。パン・ジュヒョンが韓国に帰国すると懲役刑になる可能性が高い。
疑惑はまだある。潘基文の別の弟であるパン・ギホが、国連代表団と同じ日にミャンマーの政府関係者と会っていたことがわかった。
そこで野党民主党が「潘基文の弟が国連代表団の肩書でミャンマーで事業をしている」と疑惑を提起。実際にはパン・ギホは自らの会社の副会長を名乗っていたため、国連代表団を装ったというのは事実ではなさそうだ。
しかし、同じ日の2時間後に別のミャンマー政府関係者らと面談しており、何かしらの口利きがあったのではないかという疑惑は残っている。
野党民主党のチュ・ミエ代表は「まるで芋づるのように不正が出てくる」と表現している。
1月30日、リサーチ・アンド・リサーチの調査結果によれば、次期大統領候補の支持率1位は野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)で32.8%。2位の潘基文は13.1%と水をあけられた。潘の不出馬表明はこの2日後である。
潘基文の脱落で、次期大統領選の現時点における最有力候補は文在寅になったようだ。