矢野顕子と忌野清志郎の「ひとつだけ」を忘れないでいてほしいよ



矢野顕子の代表曲の一つ「ひとつだけ」

「ほしいもの」のたとえが「きらめく星屑の指輪」「寄せる波で組み立てた椅子」「世界中の花集めつくるオーデコロン」とロマンチックな例えが続きます。

そして「けれども今気がついたこと」として「ほしいものはただひとつだけ あなたの心の白い扉 ひらく鍵」と続きます。タイトルの「ひとつだけ」「ほしいもの」は「あなたの心」であり、もっといえば「心の白い扉ひらく鍵」であると言ってます。相手に心をひらいてもらうきっかけこそが、「ひとつだけ」欲しいものという歌詞。比喩で表現された「ほしいもの」が壮大なため、対比する「ひとつだけ」が際立つようになっています。


"離れている時でも わたしのこと
忘れないでいてほしいの ねぇお願い
悲しい気分の時も わたしのこと
すぐに呼びだしてほしいの ねぇお願い"

そしてこのサビに続きます。「~してほしい」「ねぇお願い」という懇願の二段構え。にも関わらず押しつけがましい感じもなく、図々しい雰囲気もないのは、矢野顕子の歌唱力と楽曲のメロディの力がなせるわざなのでしょう。切実な思いとして聴く者に伝わります。

もとはアグネス・チャンの1979年のアルバムへの提供曲。歌詞が一部異なり「ねぇお願い」のところが「愛してるわ」になっています。

のちに矢野顕子本人がセルフカバー。ここで「愛してるわ」の箇所が「ねぇお願い」になり、歌詞に幅ができたように思います。「愛」「恋」「好き」という単語を使わずにこれほど愛情を表現している曲もなかなかないからです。

そして何より矢野顕子と忌野清志郎とのデュエットが有名。両者の良さが出ている素晴らしいコラボです。このバージョンは映画『しあわせのパン』主題歌にもなっています。

"離れている時でも わたしのこと 忘れないでいてほしいの ねぇおねがい"
忌野清志郎がこのフレーズを歌うとき「ぼくのこと わすれないでいてほしいよ」になります。「白い扉」も「黒い扉」に変更。矢野顕子の優しい歌声と忌野清志郎の哀愁ただよう歌声がマッチしています。

そして今何よりこの歌詞が響くのは
「離れている時でも ぼくのこと 忘れないでいてほしいよ ねぇお願い
悲しい気分のときも ぼくのこと すぐに呼びだしてほしいよ ねぇお願い」

と忌野清志郎が歌うことで、あたかもあの世から彼が呼びかけているようかのように聞こえるからです。

矢野顕子本人もインタビューで「彼が歌うための曲のように聞こえる」とまで言っている曲

この楽曲は、清水ミチコがモノマネでカバーしているほか、ミスチルの桜井和寿にもカバーされています。力のある曲は歌い続けられるんですね。

TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)

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