小泉記者のボストン便り
コラム
玉石混交なネット上の健康情報 米国の事情
受け手を考えた情報発信を
Q:情報を発信する側が気を付けなければならないことは、どのようなことでしょうか?
A:まず、情報を受け取る人のニーズは様々であることを認識し、例えば、がんについての情報であれば、今は病院や研究機関がバラバラに情報を提供していますが、関係機関が協力をして、がんについての情報を探している人向けの包括的なサイトを作ることが必要だと思います。
治療や検診についてのガイドライン(指針)が変わることがありますが、その際には、丁寧に、時間をかけて患者がわかりやすい情報を発信することが必要です。医学は日々進化しており、最新の情報を提供することは不可欠ですが、しばしば患者にとっては混乱を引き起こします。
例えば、米国で乳がん検診のマンモグラフィーについて専門家の団体が推奨年齢を変更した時には、患者たちは「今までの情報と全く違う」と混乱をしてしまいました。がん検診について曖昧な情報を提供することは、必要な人が検診を受けないという結果にもつながってしまいます。情報を発信する専門家たちは、時に情報の上書きは、患者にとっては混乱のもとになることを十分理解した上で、どうして指針は変わったのかを丁寧に説明する必要があります。
地域ぐるみで対策を
Q:教授は健康情報の格差をなくすことが必要だと強調されていますが、地域での取り組み方について教えてください。
A:地域で医療情報に詳しい人を育てることが急務です。地域の医療機関では、医師や看護師、ソーシャルワーカーなど、正しい情報を発信することができる人が必要になります。情報化社会の中で、病院の役割はもはや薬を処方することだけではなく、積極的に正しい健康についての情報を発信することも大きな役割の一つだと認識すべきです。健康についての情報格差は、健康格差につながります。様々な技術革新が進んでも、全員がその恩恵を受けられるわけではありません。
私たちは、マサチューセッツ州の低所得者層を対象に、情報の検索をするときにどのような困難を経験しているのか、どのような支援があれば正確な確な情報を得ることができるか研究をしました(英語:https://academic.oup.com/jamia/article/23/6/1053/2399232/Beyond-access-barriers-to-internet-health)。その結果、健康情報についてどのように検索するかを指導する人を地域に育成することが重要であるほか、インターネットを利用する上で技術的な問題を解決するための相談役を医療機関や地域に設置することなど、多面的な支援が効果的であることがわかりました。指導役は必ずしも医師や看護師である必要はなく、地域で活動をする非政府組織(NGO)の職員が専門的な研修を受けて指導することも有効です。
インターネットの普及は、正確な健康情報を伝えるという点で負の面が多いことは事実ですが、有効に使える可能性も多くあると思います。例えば、SNSなどを通じて患者同士が交流したり、コミュニティーを作ったりして支え合っています。このことはとても良いことだと思います。間違った情報が広まる可能性もありますが、ネット上に記録が残るので、専門家が「間違っている」と指摘することも可能です。
このように正しい健康情報にアクセスするための唯一の効果的な処方箋などありません。市民と医療関係者が一体となって包括的な取り組みをする必要性が高まっていると思います。
日本でも専門家が不足 情報の見極めは「いなかもち」が肝心
健康情報を正確に理解し、活用できる能力を身に付けることを支援するサイト「 健康を決める力 」を運営する中山和弘・聖路加国際大学教授(看護情報学)は、情報を見極めるコツとして「いなかもち」という合言葉を紹介しています。「い:いつの情報か?」「な:何のために書かれたか?」「か:書いた人は誰か?」「も:元ネタ(根拠)は何か?」「ち:違う情報と比べたか?」――という各項目を吟味しながら健康に関する情報を選び取り、自分で意思決定をするという姿勢が大切だといいます。そのほか、検索をする際に、研究機関や政府系の機関のURLに含まれる「ac.jp」「go.jp」に絞ったり、各学会のサイトを参照したりするのも有効です。
また、中山教授は、日本の現状について「健康や医療についてわかりやすく発信したり、情報を選択したりする専門家が不足している」とも指摘します。例えば、米政府は健康情報を理解する力が低い人にもわかりやすい健康情報サイトを作るための ガイドライン を公開しています。この中では、サイトの開発するあらゆる段階で情報を受け取るユーザーを巻き込み、繰り返しテストをし、修正することの必要性が強調されています。中山教授は、「日本でもわかりやすいかどうかを専門家が判断するのではなく、誰に向けて情報を発信するのかを明確にした上で、対象者へのインタビューなどでニーズや考え方を知り、対話しながら情報を発信することが不可欠。そのうえで、信頼性の高いサイトを公的なサイトで包括的に紹介する仕組みが必要だ」と指摘しています。
両教授はこの問題について「新聞などメディアの役割は大きい」とも強調されており、正しい情報を独り善がりにならずに発信することの大切さを改めて感じました。また、ビシュワナシュ教授が指摘をしているようにインターネット上に一度拡散された間違った情報を完全に排除するのは困難です。日本でも、市民と専門家が協力して正しい情報を見極める力を養う仕組みを作ることが急務だと思いました。
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