イタコ漫画家・田中圭一先生の自宅に突撃!「お家×仕事」と兼業漫画家のリアル

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イタコ漫画家・田中圭一先生のご自宅で、漫画に掛ける熱い思いとリアルな日常を伺ってきました。

兼業漫画家として30年以上第一線でご活躍なさっている田中先生は、ベテランになってからも尚、新しい挑戦を楽しむフットワークの軽い方でした。
田中圭一先生の魅力に迫りながら、フリーランスが活躍するヒントを探ります!

「兼業漫画家」という選択肢

兼業漫画家

どうして兼業漫画家になろうと思ったんですか?

僕は1984年、近畿大学法学部の3年生の時にデビューしたんですが、当時の収入は月間6Pの4コマ漫画のみで、これで生活はできないと思ったんですね。
もちろん、プロとしてやっていきたいという気持ちはありましたよ。
当時の就活は4年生の10月に解禁だったのですが、内々定は春~夏にかけてで。
僕は割と社交的な方だったので、「営業職」に絞って、趣味を生かせるおもちゃやプラモデルを扱っているメーカーを中心に就活をしました。

複数の内定を頂いて、タカラに入社したのですが、「副業禁止」だったので、勤務中はほとんど誰にも言わずに内緒で兼業をしていました。
それで、月~金本業で土日に漫画を描くというスタイルができたんです。
タカラには傍から見ると面白い社員が沢山いましてネタの宝庫として、漫画を描くのにも随分役立ちました。

今はどんな働き方をしているんですか?

2017年の4月で、4年目に突入するのですが、月~水は京都精華大学で准教授としてギャグ漫画を教えています。
そのため、月~水は先生で京都に住み、木金がネーム、土日は漫画というスケジュールです。
都内だけではなく京都の家にも漫画を執筆するための道具を一式そろえてあるので、クラウドを活用しながら仕事をしています。

生徒との触れ合いは刺激になりますね。
感覚の差を知ることで、トレンドを肌に感じることができますし、漫画の制作過程をロジカルに言語化することで、自分の仕事にとってもプラスになっていると思います。

プライベートタイムってありますか?

休み?ほとんどないですね。
少し前まで近所に銭湯があったので、日曜日の21時過ぎ、原稿が終わった後に銭湯に行くのが楽しみでした。
最近は中毒とも言えるくらいにSNSが好きです(笑)。
SNSはマーケティングリサーチにも使えるし、漫画は今後デジタルでマネタイズをする動きが活発になると思うんですね。
告知だけではなく、コミュニケーションなど多彩な使い方ができるSNSにハマってます。

お家×仕事

おうちしごと

今のご自宅を選んだきっかけは?

ここに移り住んだのは2012年からで、その前は登戸という所に10年くらい住んでいました。
今住んでいる南長崎の自宅は、元々友人の漫画家の仕事場だったのですが、「空くからどう?」と聞かれて決めました。
池袋まで自転車で行ける距離なんですよ。
当時の職場が池袋だったので「これはいいな」って。
買い物はネットを活用することが多いのですが、池袋のLOFTで画材を買ったりするので、池袋まで2駅というのは本当に助かっています。

自宅兼職場のメリットを教えてください

経済メリットが一番大きいと思います。
仕事を場を別に借りると、それだけでもかなりの出費になってしまうので。
僕の場合には、四六時中仕事なので、入浴中にも仕事が気になるんですね。
自宅と職場を分けてしまうと、思い立ったらすぐに仕事というのが難しくなってしまいますよね。

漫画家の「リアル」

漫画家のリアル

漫画制作について聞かせてください

ネタ帳はアナログのものは使用していなんですよね。
スマホのリマインダソフトで、忘れないようにメモをしています。
移動中も気軽にメモを取れるのが嬉しいです。

ネームですか?時間に余裕があるときには「コミPo!」という漫画ソフトを使用しています。
吹き出しや枠線を描いて台詞をテキスト打ちしてプリントアウトし、そこに絵を描き入れていくんです。
僕は字が下手なので、可読性を高めるためですね。
デジタルなので、コマやフキダシの入れ替えが楽なのも良いです。

ネームが終わったら紙とペンの出番です。
色付けをデジタルでする場合には、スキャンしてからフォトショップを使用します。
アナログの場合には、ペン入れした原稿をコピーしてコピックで塗ります。
パロディ絵はアナログで彩色することが多いですね。

どんな道具を使っていますか?

仕事に使うものは、良いものを使いたいと思っています。
ペンタブは所有しているのですが、あまり使っていないですね。
つけペンがメインで、手塚先生とか「かぶらペン」で描いていた先生のタッチを真似るときには「日本字ペン」。
Gペンで描いていた先生のタッチを真似るときには、「丸ペン」と使い分けています。

田中圭一先生愛用の日本字ペン(左)と丸ペン(右)

気になる本業と副業の比率

4年前まではサラリーマンをしていて、月~金までが本業、土日に漫画というスタイルでした。
収入比率も本業と副業で5:2位でした。
5年前にコミックマーケットに初めて参加してから、同人活動をスタートして、今では商業と同人の収入が同じくらいの比率になりました。

大学の教授は京都までの交通費と京都にある住居費で赤字なんですが、漫画はトントンくらいかな。

それに同人誌の収入が加わってプラスになる感じです。

フリーランスとして輝くために

フリーランスとして

兼業というワークスタイルは大変だと思うのですが

そうですね。
特に家庭と仕事の両立をするためには、仕事のウェイトを下げざるを得ないとは思います。
実は「ペンと筆」で、手塚治虫先生のお嬢さんである手塚るみ子さんにお話を伺ったんです。
手塚先生はあれだけ忙しいのに、家族サービスもちゃんとしていて、沢山の思い出をお持ちでした。
つまり、「ヤル気」というのが大切だと思います。
家庭を持っていて仕事を兼業したい人は、「家族が好き」というベースがやはり大切なのではないでしょうか。

壁にぶつかった経験はありますか?

1984年にデビューしたんですが、ちょうど10年経った頃かな。
仕事が減って「絵柄を変えてみませんか」って編集者に言われたんです。
アニメ絵や萌え絵など、色んな絵を描いて模写をする楽しさを知りました。
当時は結婚していたんですが、妻が手塚治虫先生が大好きだったんですね。
平成元年に手塚先生がお亡くなりになったとき、手塚治虫さんのタッチで描かれるマンガ家さんが業界にいなかったんです。
それで僕のギャグに先生の絵を組み合わせたところウケて。
もちろん「手塚治虫をいじるの?」という反応もありましたし、ウケたんですが大手メジャー誌は「流石にマズイ」っていう。
もともとマイナーなところからデビューしたんで、メジャーに拘りがなかったのもあって、そのまま手塚先生の絵、つまり今のパロディ路線を選びました。

「ペンと筆」という単行本がついこの間発売になったんですが、一番苦しかったのは山本直樹先生や永野のりこ先生といったロジックよりもフィーリングで描かれる先生ですね。
つかむのに苦労しました。
この単行本では、僕が好きな先生のご家族に登場していただいて、漫画家の好物を紹介しているのですが、結構断られているんです(笑)。
「家族はプライバシーなんで辞めてください」っていう人も多い。
苦労もありましたが、好きな先生の貴重なエピソードを聴けるいい機会でもあり、良かったと思います。

最後に、「フリーランスとして輝きたい」と考えている方に、アドバイスをお願いいたします

イタコ漫画家・田中圭一先生

「脱サラ」してフリーランスになりたいって考えている方って多いと思うんですが、僕は「脱サラ」が目的になってしまうのはマズイと思っているんです。
「何になりたいか」が大切ですよね。
目的をきちんと持って、価値提供ができなくては仕事は来ないんです。
「どうすれば成功するか?」考えていける人がフリーランスに向いていると思います。

――「今年は新しいことを仕掛けていきたいと思います」とにこやかに語ってくださった田中先生。
ベテランの域に達しても尚、トライアンドエラーを繰り返しながら、前に進むその姿勢はフリーランスにとって学ぶべきところが多いといえます。

そんな田中先生の40代から10年にわたる「うつ病」との戦いを描いた、「うつヌケ」が2017年1月19日に発売になりました。
田中先生ご自身の体験談だけではなく、多彩なゲストのリアルな様子を知ることができますので、興味をお持ちの方は是非ご一読ください。

田中 圭一
1962年生まれ、大阪府出身。京都精華大学准教授兼漫画家。
Twitter:はぁとふる売国奴『うつヌケ』発売中


執筆者:あおみ ゆうの

あおみ ゆうの

1980年生まれ、埼玉県出身。UZUZ編集部編集長。
UZUZ編集部:http://editorial.daini2.co.jp/

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