通商問題で貿易相手国を批判してきたトランプ米大統領が、為替政策を俎上(そじょう)に載せた。中国とともに日本を名指しし、「通貨安誘導を利用して我々を出し抜いている」と述べたという。

 為替介入が念頭にあるとすれば、明らかに事実誤認だ。

 日本は2011年を最後に介入をしていない。中国は最近は自国通貨を買い支えており、トランプ氏の認識と逆向きだ。

 マネーサプライ(通貨供給量)に言及しており、日本銀行の量的緩和政策をやり玉に挙げる可能性もある。日本政府は早速、「日本の金融政策はデフレ脱却という国内政策が目的で、為替を念頭に置いたものでは全くない」と反論した。

 目的は政府の指摘の通りだ。ただ、そうした政策が円安を伴い、日本経済が恩恵を受けているのも事実である。とりわけ日銀が続けているような大量の資金供給を伴う異例の政策が、他国との摩擦を起こす可能性は、過去にも指摘されていた。日本政府は丁寧に説明を続けていく必要がある。

 起点になるのは、これまでの国際的な合意だ。

 日米を含む主要国の間では、国内政策と国際協調の兼ね合いが繰り返し議論されてきた。昨年のG7では、各国が成長の回復に努め、中央銀行は低インフレの克服に取り組むことが確認されている。同時に、為替水準を目標にしないことや、通貨の競争的な切り下げを回避することもうたわれた。

 こうした枠組みが各国の利益につながると理解され、その中で、日本だけでなく欧州や米国でも異例の金融政策が実行されてきた。08年のリーマン・ショック後は米国の金融緩和が先行し、日本が急速な円高に見舞われる局面もあった。

 日銀の政策には問題もあるとはいえ、米国からの一方的な批判は筋違いだろう。トランプ氏は、過去の国際的な合意を踏まえるべきだ。

 もちろん、現在の枠組みが最善とは限らない。互いの利益をさらに増すような提案なら歓迎される。だが、そうした姿勢はうかがえない。

 昨年末から市場で進んだドル高は、トランプ氏が打ち出した減税やインフラ投資策を受けた動きだ。にもかかわらず、トランプ政権は二国間の貿易交渉に為替条項を盛り込む姿勢を示し、ユーロ安を理由にドイツにも矛先を向け始めたようだ。

 こうした振る舞いが続けば、国際的な経済関係が漂流しかねない。米国にも利益にならないことを自覚すべきだ。