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視点・トランプ時代/8 移民国家 日系人に広がる危機感=論説委員・野沢和弘

 トランプ大統領の就任式の翌日、ロサンゼルスで日系3世の男性(70)に会った。

     「長年かけて築き上げたものが一気に崩される。昔の排他的な社会に戻ってしまいそうだ」

     第二次大戦中、米国内の日系人約12万人は強制収容所に送られた。男性の両親と祖父母も収容生活を強いられた。戦後も苦難は続いた。米政府が正式に謝罪したのは1988年のレーガン政権時、現存者への賠償金支払いが完了したのは99年だ。

     民族や人種の違いによる相克を乗り越え、米国は多様性に満ちた自由で寛容な社会を築いてきた。それがトランプ大統領の登場で崩されると男性は言うのである。「イスラムやメキシコ人の不法移民に対する差別的なレッテルは、日系人にも貼られるようになるだろう」

     外国からの移民がさまざまな分野で社会を支えているのが現在の米国だ。私は滞在中、タクシーや一般人が自分の車で行う「ウーバー(Uber)」という配車サービスを使ったが、運転手はエチオピア、ソマリア、フィリピンからの移民だった。

     「とんでもないことになった。なぜあんな人が大統領になったの?と子どもに聞かれる」。5人の子がいるエチオピア人の運転手は困惑した顔を見せた。ふだんはアラビア語の教師をしており、土日や夜間に運転手をして家族の生活を支えている。

     トランプ大統領の政策は米国内の移民労働者や家族を不安に陥れ、さまざまな産業に悪影響を及ぼすだろう。

     多様な個性や考え方が混在しているからこそ、社会を変える新しい価値観が生まれる。人々の不安が高じるだけではなく、米国社会のダイナミズムを生み出してきた根幹が崩されようとしているのだ。

     私たち日本人にとっても人ごとでは済まされない。米国の変容は日本の経済や文化にも大きな影響をもたらすに違いない。

     戦時中、日系人の強制収容の大統領令に抵抗したことで知られるF・コレマツ氏(故人)は同時多発テロの後に「米国は中東の人々に対して、過去に日本人に対してしたことの轍(てつ)を踏んではならない」と声を上げた。

     ネット検索大手の「グーグル」はコレマツ氏の生誕日(1月30日)、米国のホームページに同氏の似顔絵を掲載した。トランプ大統領が中東・アフリカ7カ国の国民や難民の入国を一時禁止したことへの抗議を表したものと言われる。

     「何かが間違っていると感じたら、怖がらずに言うべきことを言いなさい」というのがコレマツ氏の言葉である。

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