ライブスケジュールはどうしても週末に固まるので、月曜はいつもブッキング関連のやりとりや資料の整理になる。面倒だけどこれをやらないと進まない。
最近日本人に限らずバンコクに来るミュージシャンのブッキングの協力要請が多いのだけど、現状俺がバンコク市内で付き合いのある小屋の数はせいぜい20箇所ってところでオーガナイザーとしてイベントを企画するならば、せめて50箇所くらいは演奏できる場所を知っておかないとすぐに手詰まりになる。バンコク市内だけでも少なく見積もっても数百軒のライブスペースがあるだろうし、弾き続けていればそんなに遠い目標ではないが、この街で生きているたくさんのミュージシャンやDJ達が日々鎬を削っているわけで、たいした腕もないのに旅行気分で来て現地の親切な人に世話してもらって外タレ気分…とかありえないし中途半端な奴を紹介するのは俺にとってなんの意味もない。
無名のミュージシャンは何もわからなくてもいいからせめて気合入れて準備してから来いといつも思う。やる気があるなら間違いだらけでもいいから情報を盛りに盛って底上げした英語の資料くらいは最低限準備して、自分なりにシーンについて下調べもしてから現地とコンタクトを取るってのが当たり前だろう。今はネットがあるし大概の事は調べられる。俺はここで1発目のライブに友人の助けをもらった以後は、誰も知らない何もわからないという状態から自分でブッキングを取って交渉して演奏して次のブッキングをもらって…という形でずっと進んできた。タイに来るまで海外渡航経験すら無くて社会人としての常識もなくて英語もほぼ喋ったことがなかったおっさんミュージシャンにできたってことは、誰にでもできるはずだ。
俺 『とりあえず英語の資料送ってくれる?』
相手『英語苦手なんすよね…翻訳してくれませんか?』
この手のくだらないやりとりにはうんざりする。
自分の事は自分でやれ。
俺はマネージャーでもスタッフでも親切な友人でもない。
諸々の雑事が面倒ならば日本でガンガンライブやって作品をリリースして名前を売って、タイ人のファンに迎えてもらうような状況を作ればいい。日本で結果を出してから海外にライブ活動を展開している素晴らしいバンドがたくさんいる。もし音が良ければタイのバンドはとてもフレンドリーなので主催イベントに出演させてくれたりもする。
俺は最初の頃はTHE BLUE HARBのフジロックのライブシーンを思い出しながら、とにかく出演したイベントのオーガナイザーやLIVE BARのオーナーや出演者達に、『俺は日本人のギタリストだ。どこでもやれる。とにかくステージをくれ』と拙い英語で言い続けていた。テンションが高すぎて引かれるときもあったが、日本的な察する文化はここにはないので、言わないと誰も存在に気づかない。小さくてもステージさえあれば自分の音を伝えることができる。自分で交渉したので次からも誰の手も煩わせずに直接やり取りできる。トラブルはもちろんあるが、誰かを介してやるよりシンプルで解決も容易い。
ライブ関係の人と話しているとよく話題に上るので書くが、日本語のオリジナルを歌っている歌い手さんは基本的に無理に外国に出る必要はない。本気でここで歌うならタイ語か英語じゃないと話にならないし当たり前の話だ。
『どうやったらもっと盛り上がりますかね』
『1曲でもいいからタイ語の曲をやった方がいいんじゃない?ここタイだし』
『いや~オリジナルの歌詞にこだわりがあるんでカバーとかはちょっと…』
『じゃあ日本でやるべきだよね』
これも実際によくあるやりとりだ。何が目的なのかわからない。
ただ、優れた歌手は言葉の壁を簡単に越える。歌詞は関係ない。その場面を実際に目にすると素直に感動しかない。シンプルに『声』の力で一瞬でみんなの心を掴む。個人的な意見だけど、生まれた時点で歌手になれるかどうかは決まっている。声は生まれ持った身体能力なのでアスリートと同じでどれだけ必死で練習しようと無理なもんは無理なのだ。さておき、外国に来て歌詞で勝負するとかのたまう奴は声が一流ではないってことなので、言葉の通じるところで活動するのが生き残る道だろう。
最近大好きなタイの歌手 Rasmee とレゲエバンド SRIRAJAH ROCKERS のコラボレーション。
めちゃいい声やわ。
まだ来たことのない日本人から見るとタイはかなり発展途上国に見えているようで無意識に上から目線の話をする奴が多いが、バンコクは日本の大概の地方都市よりぜんぜん都会だ。タイには独特の階級社会があって、それぞれがコミュニティーを形成している。バンコクではそれに加えて旅行者や移住者、周辺国からの出稼ぎ等々の様々な人種、それぞれの文化、宗教によって形成される小さなコミュニティーが複雑に絡み合っているので、島国で画一的な日本の管理社会で育った俺たちに簡単に理解できるような国ではない。上から目線の意見はタイの一部、それもメディアの情報を見てすべてを知ったような気分になっているだけで浅はかな話だ。この国は多種多様だからこそたくさんの場面があって面白いので、まず妙な先入観は捨てた方が良い。スキルの高いミュージシャンや才能のある歌手やコンポーザー、アーティストも山盛りいて、今まさにシーンが発展している最中で若いミュージシャンが修行するには悪くない。ただ、生温い気分で来るなら楽しく旅行した方が絶対に良い。飯はうまいし景色も良いし女の子も可愛い(笑) 本日は以上。