映画「オーシャンズ11」で、主人公の1人テス(ジュリア・ロバーツ)が、いくつかの印象的なフレーズを言い放つ。その1つが、これ。
You of all people should know Terry, in your hotel, there's always someone watching.
http://www.imdb.com/title/tt0240772/quotes
不用意なふるまい、そして発言をした夫テリー(アンディ・ガルシア)を、テスがたしなめていう印象的なシーン。意味は「(他の人はともかく)あなたは知っているべきよ、テリー。このホテルでは、いつも誰かが見ているの」というほどのもの。
これが、もう少しあとの、前の夫ダニエル(ジョージ・クルーニー)との生き生きとしたやりとりの対照的な伏線になっているのだが、それはさておき。
明日と、明日に続く今日は特別な日なので、ひとつ、もったいぶっていないで、僕からエピソードを。
*
よよん君がなくなったあと、姉のさちこさんは、夜中に目を覚まして、寝室のある2階から、1階の居間に降りてくることが多くなった。だれかに、疑いもなくよよん君なのだけれど、呼ばれている気がするのである。
多くの場合、仏壇の前には、ねこの「みゃあみゃあ」が座っている。
「みゃあ」
こちらを振り向いて、鳴く。
「ようちゃん」と、姉はつぶやく。
たまに、みゃあみゃあではないこともある。見覚えのある背を丸めて、座っている人がいる。
母親だ。
じっと、遺影を見つめている。
そんなとき、さちこさんは、黙って、静かに、踵を返す。
*
「あのなあ」
「なあに、母さん」
「みゃあみゃあがな」
「うん」
「母さん、夜に目を覚まして、ようちゃんの顔を見にいくとなあ」
「いやだ母さん、そんなことしてるの」
「うん。わたし、ようちゃんのことが、かわいくてなあ」
「知ってる」
「そやろ」
「それで? 話のつづき」
「みゃあみゃあがな」
「うん」
「仏壇の前で、話してるんやで」
「ようちゃんと? まさか、そんな」
「あれは話をしてる顔やと思うのやけど、なあ」
*
(私も、知ってる)
そのことばを飲み込んで、さちこさんは、
「この母にして、あの弟ありやなあ」
そんなふうに、思い返すのだった。
*
明日の始発で、京都の猫寺(称念寺さん)に向かいます。
9時に門が開いて、拝観の時間帯になるとほぼ同時に、僕はお墓に向かい、花を、甘いものを、よよん君が好きだったコーラを、捧げるつもりです。
どなたか、おひとりで構いません。9時を回って1分、2分したところで、京の都のほうに向かって、よよん君のことを思い出してあげていただけませんか。
残念ながら、お父様は、よよん君のあとに、病気で亡くなりました。
それでも、お母様、お兄様、お姉様、血液グループ先生、私、あと、どなたか。世界に6人もいれば、その姿を察して、ほかのだれかが「みゃあ」「にゃあ」と、静かな鳴き声を、聞かせてくれるはず。
そんなことを、思ってみます。