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視点・トランプ時代/7 民主政治の危機 米議会は何をしている=論説委員・与良正男

 「多くの国民の不平・不満をすくい上げられなかった政治がルールに基づいた国民の投票という力によって変えられた。極めて健全な民主政治の結果だ」

     トランプ米政権の誕生について橋下徹前大阪市長はこう話している。既存政治家の否定やツイッターの多用など新大統領と共通点が多い橋下氏としては当然の評価ではあるのだろう。

     同意はできない。ただし「メディアや知識人は政治家に対して国民の声を聴けと言う。で、国民に耳を傾けると今度は大衆迎合主義と言う」という橋下氏の批判は、ある種、ポピュリズム議論の本質をついている。

     民主政治とは選挙=民意を重んじ、最後は多数決で決めるものだ。だが昨年来、改めて問われているのは「多数派の選択がいつも正しいとは限らない」という、この仕組みが内包する根源的な問題だと思うからだ。

     ダメなら選挙でまた代えればいいというのも民主政治だ。しかしトランプ氏が短期的にも「正しくない行動」を取るリスクは世界的にも大き過ぎる。

     暴走を抑えるためにあるのが三権分立の制度だ。米国は建国以来「王様」を嫌い、専制や独裁を否定してきた歴史がある。このため実は大統領の権限は制度上、それほど強大ではない。

     例えば大統領には立法権限はない。法律に代わりトランプ氏が早くも乱発している大統領令も、連邦議会が内容を覆し、修正する法律を制定して対抗できる。議院内閣制の下、衆参で与党が大多数を占める今の安倍晋三政権の方が権限は大きいと言えるほどだ。

     元々、米大統領制は連邦議会の独走を抑制するためにできたそうだ。今度は議会が大統領の暴走を抑える時だ。とりわけ与党・共和党の責任は大きい。

     ところが既に裁判所は一定の役割を果たしているのに対し、肝心の共和党の姿勢がおぼつかないから深刻だ。来年の連邦議会選挙を控え、トランプ人気が続いていると見れば、同氏に追従する一方かもしれない。

     「民主政治は最悪だ。これまでに試みられてきた他のあらゆる政治形態を除けば」というチャーチル元英首相の言葉を最近また、よく耳にする。欠点はあるが、民主政治以外の形態は見当たらないと今も私は思う。

     だが、このまま独裁型の政治が米国で進めば、人々の不信の目が代議制民主主義そのものに向かうことにならないか。なまじ選挙などしない方が有効だという話にもなりかねない。

     だから今後の議会の役割は大きいのだ。もちろん、それは日本においても。

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