日本を代表するものづくり企業の力が試される局面である。

 三菱重工業が開発する国産初のジェット旅客機「MRJ」の納入開始が、また先延ばしされた。08年に事業が始まって以来5回目の延期で、当初計画から7年遅れの20年半ばになる。

 MRJは、航空機産業を日本の製造業の新たな柱に育てる牽引(けんいん)役として、期待を集めるプロジェクトだ。政府も技術開発に数百億円の補助金を出すなど、支援してきた。遅れの根本的な原因を見極め、開発体制を立て直すことが急務となる。

 三菱重工を含む日本企業にとって、旅客機の開発はプロペラ型のYS11以来、半世紀ぶりの挑戦だ。新興国の経済成長を追い風に需要の急増が見込まれる小型機分野にねらいを定めた。

 新型機の開発が年単位でずれ込むことは珍しくない。とはいえ、納入が遅れるほど受注競争で海外のライバル企業に後れを取る。開発コストも膨らみ、事業の成功は難しくなる。

 度重なる延期の理由は、設計の変更や検査態勢の不備など、さまざまだ。今回は、安全性を高めるため、飛行を制御する機器の配置を分散させることにした。社外から招いた技術者の意見に従ったという。

 重要な変更の判断がなぜここまで遅れたのか、首をかしげざるを得ない。宮永俊一社長は記者会見で、安全規制への対応で知見が足りなかったと説明した。開発前の情報収集やリスク分析も不十分だったという。

 三菱重工では大型客船の建造が難航し、巨額の損失を出したばかりだ。原因や背景を分析した社内報告書は「他部門の助けを求めない気質や上意下達的な風土」を指摘した。技術の自前主義から生まれる過信、組織の縦割りによるプロジェクト管理の不備は、MRJにも当てはまるのではないか。

 三菱重工は、事業のリスク管理体制を見直す改革に乗り出している。MRJはトップの直轄事業にした。欧米メーカーなどで働いた経験を持つ技術者を数多く採用し、自前主義からの転換を進める構えだ。

 製造業では、社外の技術やアイデアを積極的に取り込み、革新的な製品を生み出す「オープンイノベーション」が広がる。旅客機開発の経験不足を補うにはこうした発想が大切だろう。

 日本のメーカーでは最近、東芝の原発やタカタのエアバッグなど、プロジェクト管理や品質確保でつまずく例が相次ぐ。原因や背景はさまざまだが、技術的な課題だけでなく、組織に根ざす弱点も洗い出してほしい。