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“専業ではない”バカリズムの脚本家としての強み「プロが避けることをやる」

オリコン 1/31(火) 8:40配信

 お笑い芸人としてはもちろん、近年は脚本家としても注目を集めるバカリズム。そんな彼が原案・脚本を手がけ、二階堂ふみ、オードリー・若林正恭らと主演しているドラマ『住住(すむすむ)』(1月24日放送開始 日本テレビ・Hulu)も期待値が高い。お笑い芸人と脚本家との二足のわらじを履くバカリズムに、現在の自身の立ち位置について語ってもらった。

【写真】バカリズム、二階堂、若林ら、自然体な3人の自撮り風ショット

◆コントとドラマの脚本を書くのは、基本は変わらない

――ドラマ『住住』はそれぞれが本人役として出ているので、どこまでが演技なのか素なのかわからない。ある種“フェイク・ドキュメンタリー”のようなドラマですが、この設定はどんな風に思いついたんですか?
【バカリズム】 まず先にこの3人で何かできないかなってお話があったんですよ。スタッフと雑談をしている中でそれぞれが本人役で、僕や若林(正恭)さんが普段、本当に話していそうな、スケールの小さいことをテーマとして取り扱ってみたらどうかと。それってこれまであまりないよねってところからスタートしたので、観たことがないドラマになっていったんですよね。

――よりリアリティを出すためにこだわったことは?
【バカリズム】 コントの台本は笑いのための要素を詰め込んでいくいわばプラスの作業ですが、『住住』はいらないセリフをどんどん削除していく作業がメインでした。面白くても日常にはない言い回しとか、コントではウケても実際に言ったら白々しいなってボケとかは全部、削っていく引き算の方が多かった。それで、さらに撮影の段階でも、浮いてしまうセリフやリアルじゃないものはカットして、より日常に近い感じにしていったんです。だから、どんなんだろうって心配ではありましたよね。

――脚本を書くときとお笑いのネタを書くときって、やり方や感覚は違うんですか?
【バカリズム】 基本は変わらないです。ネタを作るときは日常の何気ないシーンをどれだけ誇張するかってところがベースになるけど、脚本の場合はそれをドラマ用に書き換えるぐらい。根っこの部分はコントを書くのと同じです。

◆脚本の仕事は芸人をちゃんとやったことのご褒美

――2クール続けて連続ドラマを手がけていますが、人気脚本家として期待されている現状をご自身はどう捉えていますか?
【バカリズム】 僕自身は自分が脚本家って感覚はないかも。割合的にもう少し脚本家にシフトしていればそういう意識も芽生えるんでしょうけど、ガッツリ芸人をやっていますからね。芸人がちょっと脚本を書かせてもらって申し訳ないって感じだし、芸人をちゃんとやっているからこそのご褒美だと思っているんですよ。しかも今は脚本を書いている中で学んだことや刺激を自分のネタにも活かせるっていう、相乗効果になっているから、このまま両方やり続けていければいいなとは思います。

――芸人さんとしてこれだけ忙しい中で、脚本はいつ書いているんですか?
【バカリズム】 収録が終わって、共演者たちがごはん食べに行ったり寝ている時間です。みんなが帰る姿を見送りながら、自分は作業場に行って朝まで書いてちょっと寝て、またお笑いの現場に行くっていう生活。だから本当にプライベートの時間をそのまま使っているんですよ。このサイクルはもう3年ぐらい続いていて、365日中360日ぐらいは作業場にいるんじゃないかな。

――それ、辛くないんですか? それともむしろ楽しい?
【バカリズム】 いや、辛いですよ(笑)。

――それでも書きたい?
【バカリズム】 多分、今は一番、頭が回転してたくさん書ける時期だと思うので、できるだけやっておきたいって気持ちが強いんでしょうね。あと芸人と脚本の両方やるようになってから、バランス的にいい感じになっていますね。脚本を書いているだけだと普通は顔とかわからないけど、芸人をやっているおかげで「このドラマはオレが書いてます」って知ってもらえるじゃないですか。そもそも僕はモテたくてこの世界に入っているので、顔を出してそういうことを言いたいわけですよ。で、一方では「(芸人なのに)脚本も書いてんの?」って、これまたチヤホヤされるっていう、そのスタンスがちょうどいいんですよねぇ(笑)。

――(笑)。脚本を書くようになってから、お笑いの現場でも扱いとか変わりました?
【バカリズム】 いや、これが全然変わらないんですよ。もっと変わると思っていたのになんだよって。バラエティの現場に行ったらガッツリ芸人として扱われる。それはそれでありがたいんですけどね。

◆プロの脚本家が避けることをやる、そこが僕の強み

――今後も脚本家としての需要はさらに増えると思いますが、そこからさらに枠を広げて、映画監督やドラマ演出もやってみたい気持ちはあります?
【バカリズム】 どうでしょうねぇ、僕、映像に関してはまったく知識がないんですよ。やるためには絶対、勉強しなきゃならないし、やってみたい気持ちもありますが、僕が脚本を書いて、あとは監督さんに味付けをしてもらったものを観るっていうのも楽しいです。だからどっちかというと今は自分が撮りたいって欲求よりは、単に「撮ったらオレ、カッコいいよな」って、そこに魅力を感じますね(笑)。

――なるほど(笑)。
【バカリズム】 でも劇団ひとりに映画を撮ったときのことを聞いたら、「すごく楽しかった」って言ってたんですよ。「どんなに朝早くても全然苦じゃなかった」って。品川(祐)さんも「メチャクチャ面白いですよ」って言ってたから、やっぱり監督ってハマるんだなとは思う。芸人さんってネタを作るのが好きな人も多いじゃないですか。だから元々、体質的に物作りに向いている部分はあるのかもしれない。ただ、僕の場合は、これまで映画とかドラマをほとんど観てきてないですからね。もし監督をやるなら、まずはいろんな作品を観るとここからスタートしないと。

――でも観てないないからこそ、ああいう誰も考えつかない作品が書けるのかもしれないですよ。
【バカリズム】 それはあるかもしれない。というのも僕、プロの脚本家が避けることばっかりやっているらしいんですよ。全部、逆をいっているって、ある監督さんに言われました。強いて良さを挙げるなら、そこが僕の強みなのかもしれないですね(笑)。

(文:若松正子)

最終更新:1/31(火) 14:11

オリコン