正しい決断をするには「知性のある先達を心に住まわせること」[PR]
- 2017年1月30日
人生は決断の連続だ。部下から上がってくる案件の決済から、明日結ぶネクタイの色まで、人は多くの“決断”に忙殺されている。では、その決断を下すために、人は何をよりどころとしているのだろうか。
経験、勘、データ。様々な要素を用い、人は逡巡(しゅんじゅん)を振り切り、決断へとたどり着くが「心の中に知性のロールモデルとなる先達を持つ」というのが、教育学者である齋藤孝先生のやり方だ。1月7日に発売された著書『知性の磨き方』の中では、様々な先達の知性のあり方を紹介している。
この先達の持っていた「知性」こそが、何か問題が起きた時に正しく対処する力の源だという。実際に、齋藤先生はどのような人物をロールモデルにしているのか? 先達への尊敬・愛とともに語ってもらった。
吉田松陰、松下幸之助……。齋藤孝が心に住まわせる先達たち
――齋藤先生は、ご自身の知性のロールモデルとして、誰を設定されていますか?
齋藤:私の場合は、その時やりたいことによってロールモデルが少しずつ変わってきます。たとえば、教育関係なら、吉田松陰と福澤諭吉の両先生。
両先生の時代には「この人は、あの人のお弟子さんだったんだ」「この人に教わった人がこういうことをしたんだ」というような「人と人の出会いによって歴史がつくられる」というのがよくあるんです。福澤諭吉の場合、彼の師である緒方洪庵もとても立派な人です。ロールモデルはひとりの人ではなく、同時に何人か設定することはよくやりますね。
――シーンによってロールモデルを使い分けるということでしょうか?
齋藤:そうですね。決断が必要な時には勝海舟や田中角栄、経営的な判断が必要ならば松下幸之助、といった具合です。
ロールモデルを設定するメリットは「その人が言っているなら、そうかも!」と素直に思えることなんです。聞く耳を持てるかどうかが大事で、ロールモデルにするということは自分の精神面での師匠にするということですから、素直に聞けるんですね。
――自分の模範にできる人をロールモデルに選ぶべきだとお考えですか?
齋藤:模範にできる人物はたくさんいると思うのですが、ロールモデルはあまりにも昔の人に設定してしまうと難しいんです。
たとえば、ブッダをロールモデルにすると、弟子が後世に語り継いだ内容を超えて、ブッダ自身の感じていたことや、思想に迫るのは難しい。想像できる範囲を超えているんです。ロールモデルは想像可能な範囲内の人にするのが良い。
ロールモデルを設定し、その人の思考を追体験することで、困難に陥った時に「こんな時、あの人ならどう考えたかな?」と、自然と考えられるようになる。
ですから、模範というよりは、先行者ですね。先に行って苦労してくれた人です。西郷隆盛は、西南戦争を経験して、2回も島流しされて、相当きつい中、佐藤一斎の『言志四録』を書き留め、自らの血肉にしました。そういう苦労の中で努力した人を心に置くと、メンタル的に元気になれますね。
――ロールモデルの苦難に思いを寄せることも大事なんですね。
齋藤:伝記を読んで「理解する」というのが、知性を磨くためにはいい訓練ですが、理解のためには主に二つのやり方があるんです。
ひとつは、要点を抜き出し整理し「分析する」というやり方。もうひとつは一冊の本に深く入り込み、感性をフル稼動させるような「憑依(ひょうい)する」やり方です。
ロールモデルのつらさに思いを寄せるとは、後者のやり方での理解ですね。子どもの頃、漫画を読んだ後に、漫画の中の登場人物になりきってしまうことはあるでしょう。それと同じで、伝記を読んで自分もこんな風にやってみたい! と奮い立つことで、自分の中のミッションが刺激されるんです。
自分を超え続ける人になるために必要な「憧れの矢」
――「憑依」で理解するためには、どんな工夫が必要ですか?
齋藤:おすすめなのは、2週間くらいはそのロールモデルの世界に入りきって生きてみることです。たとえば、今月は「吉田松陰月間」のように決めて、手帳に「◯◯月間」と書き、通勤時間などにその人の本を読み続けるんです。ひとりの人物についての本を読み続けると、だんだん染み込みが良くなってきます。大体のことがわかってきて、3冊目くらいからは早く読めるようになるんです。
そもそも、5冊以上ひとりの人物について読む人って少ないと思うんですよね。5冊目、6冊目とくると、ちょっとした優越感を楽しめるはずです。「この人については、まず自分が詳しい」と思えるのは、気持ちの良いことですよ。
――史実に基づいたフィクションもありますが、フィクションでもインプットは可能でしょうか?
齋藤:フィクションを交えながら読むと、読み進めやすいですね。フィクションで興奮しておいて、史実にいくと、ここがフィクションだったんだ! と分かるのもいいですね。
フィクションだけでなく、テレビの歴史番組でもいい。とにかくアンテナを立てておくことが重要です。たとえば、渋沢栄一が論語に基づいて経営をやった、という番組を見たら「渋沢栄一はすごいな。論語も読んでみよう!」というように、関心が派生していくことが大事です。
ニーチェも「憧れを目指して飛ぶ一本の矢になれ」というような言葉を残しています。何かを「好きだ!」と言える状態は、とても勢いがある状態です。こういう状態にあると、新しいことに気づいたり、幅広いものの見方ができたりと、従来の自分を超えていきやすい。これはとても知性のある状態だといえます。
ロールモデルになるような、知性のある人物も、自分を超え続けていった「超人」です。新しく何かが変わる、拓(ひら)けていくことを喜べるのが知性なんですね。
「考え方が変わるのは面白い」と思えるかどうかが、知性の分かれ目
――知性とは、新しいことに気づくことができる楽しい力ということですか?
齋藤:新しいことに気づけないというのは、感性の問題もあるかもしれませんが、やはり知性の有無が大きいと思います。なぜかというと、自分の固定観念を崩す勇気も、知性のひとつだからです。守る方が楽な固定観念を打ち崩してでも、スリルを味わいたい、というのが知性。
そういう意味では、知性には強さがあります。殻を破って考え方が変わることを面白いと思うか、怖いと思うかの違いこそが、知性の違いになると思います。
――人生を楽しむためには、知性はとても大切な力なんですね。
齋藤:もちろん、楽しむためにも必要な力です。一方で、知性とは困難な問題や厳しい現実に直面した時に、その原因が何かを見極める力であり、取りうる現実的選択肢を探る力、そして実際に行動を起こし、対処するための力でもあります。
知性は生き抜いていくために必要な力といえるでしょう。
「知性の磨き方」とは?
自信を失った時、自分を奮い立たせなければならない時にも、心の中に知性のロールモデルを設定しておくことは、生きていく上で大きな助けになるだろう。
冒頭でも紹介した、齋藤先生の著書『知性の磨き方』では、様々な主張が飛び交い、つい自分を見失いそうになってしまう現代社会において正しい選択をし、動じずに生き抜くために必要な知性の磨き方が様々な観点から解説されている。
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