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李信恵
ニュース女子の酷さ。デマはいつかマイノリティを殺す。だから許してはいけない。
2017.01.28
by 李信恵
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1月2日に放送されたTOKYO MXの「ニュース女子」91。この日は「沖縄・高江のヘリパット問題はどうなった? 過激な反対派の実情を井上和彦が現地取材!」と題した沖縄・高江の報告がなされた。ひとことで言えば、デマばっかり。最初に観た時は、絶句した。そして残ったのは怒りしかなかった。原稿を書くのに再度視聴したが、今度はすごく辛く、悲しくなって涙がこぼれそうになった。自分が受けたヘイトスピーチと重なって、フラッシュバックを起こした。


沖縄県東村高江では、米軍のヘリパッド建設に反対する市民が抗議行動を行っている。私も沖縄には昨年の9月と12月に訪れた。9月は台風の影響もあったため、名護まで。12月には高江での抗議集会に参加した。車がなければ不便ではあるけど、現地の友人の車に同乗させてもらって現地まで何事もなく行けた。


集会が開催される前には参加者の歌などもあり、とても和やかなものだった。運動は怒りだけでは続かないものだから、そう云った笑いも取り入れることってとても大切だ。集会では女性議員が「私たちは戦後70年間、沖縄でずっと闘ってきた。2か月、3か月の話ではない」というスピーチをした。その言葉が、胸に刺さった。沖縄の市民がヘリパット建設に反対するのは、自分たちの尊厳が踏みにじられているからだ。戦後70年、ずっとだ。沖縄も、在日も。マイノリティの中では、戦争はまだ終わってないと思う。


12月に沖縄に行くすこし前に、たまたま辛淑玉オンニ(朝鮮語でお姉さんの意味)と電話で話した。のりこえネットが沖縄の高江へ市民特派員を派遣しており、交通費として5万円を支給するという告知を見ていたこともあって、「のりこえネットの市民特派員、フリーライターじゃだめ?」と尋ねた。書くことを職業にしているから、プロでも市民特派員になれるのかなと思ったからだ。淑玉オンニは「どうだろう。一度のりこえネットに問い合わせてみたら?」と返事があった。なので、市民特派員に応募した。フリーランスなので、取材は交通費との闘いでもある。いつもこの戦いには負けている。


結果は無事に合格で、2泊3日で沖縄に滞在した。大阪からで、さらにLCCを利用。初日は名護のゲストハウス、翌日は沖縄の友人宅に泊めて貰ったので若干安く行けたとはいえ、名護から那覇まで長距離バスにも乗ったし、食費もかかる。


しかし「ニュース女子」は、「反対派は日当を貰っている!?」「反対派を扇動する黒幕の正体は!?」として、外国人である辛淑玉がお金を集めて、日当を払って運動員を沖縄に送り込んでいる、と報道した。嘘ばっかり。私はまた2月上旬にも沖縄に再度行く予定なので、交通費だけですでに5万円以上。日当どころではなく大赤字だ。


沖縄のことはこれまで内地ではほとんど報道されてこなかった。だから「のりこえネット」は2016年11月に沖縄の状況を報告する市民特派員を募った。また、市民特派員を応援するために募金を呼びかけた。結果的に17人がのりこえネットに集められた市民からのお金で沖縄に行った。私もその内の一人だ。

反差別、反ヘイトスピーチの活動に参加してきた人たちは、いち早く沖縄の問題にも目を向けた。そして、沖縄へと向かった。それは、沖縄で起こっていることもまた差別であり、この日本の社会で立ち向かわなければいけない自分自身の問題であると感じたからだ。「ニュース女子」は、そんな普通の市民の思いも踏みにじった。


番組の説明は「タテマエや綺麗ごとは一切なし!本音だらけのニュースショー!!今話題のニュースを女性とともに考え、面白くわかりやすく解説する、大人の社交界型ニューストーク番組」とあった。


権力には露骨に媚びるのに、沖縄で声を上げて戦う名もなき人たちのことはまともに検証もせず、あざ笑う。本当にひどい番組だ。「今話題のニュースを女性とともに考え」とあるが、「どこが?」と思う。お飾りのように若い女性を並べ、この国のマジョリティの象徴ともいえる日本人の男性たちが、彼女らに教えるというような構成だ。対等には到底見えなかった。黙ってうなずく、自分の話を尊敬のまなざしとともに聞いてくれる女性の方が、都合がいいからだろうな。


これと同じような番組を、自分はどこかでずっと前から見たことがある。それは、「(たかじんの)そこまで言って委員会」だ。この番組も「ニュース女子」と同じく、権力と対峙するという報道のあるべき姿を忘れ、右傾化する日本社会をそのまま体現し、ヘイトスピーチに近い(ほぼヘイトスピーチといってもいいかも)言説を垂れ流す番組だ。大阪府警が沖縄で「土人」発言をした背景には、こういう番組を垂れ流すという土壌が大阪にあったからではないのかとも思う。


そして、私が怖いのは、これらの番組の内容自体はもちろんだけど、その主張にうなずく視聴者がこの社会には多く存在するということだ。その姿は見えないからこそ、不安になる。


1月16日、MXテレビ側が見解を発表した。「1月2日に放送しました沖縄リポートは、様々な沖縄基地問題をめぐる議論の一環として放送致しました。今後とも、様々な立場の意見を公平・公正にとりあげてまいります」


デマや偏見を垂れ流すこと、沖縄や在日の差別を煽ることは議論じゃない。弱者の側に立つこと、名もなき人の声を拾い上げるのが報道の役割だ。権力の公報になり下がっているメディアは、いつか自分で自分の首を絞めることになる。

同番組でヘイトスピーチを受けた、のりこえねっとの共同代表の淑玉オンニは1月27日、BPO放送人権委員会に人権を侵害されたとして救済を申し立てた。1月22日、淑玉オンニは自身のFacebookで、今回の件についての投稿をした。


読んでいて、辛くて涙が出た。淑玉オンニの魂の叫びのようで、嗚咽のようにも感じた。踏みにじられたのは、オンニだけじゃない。私も心を殺された。在日であること、そして女性であるからこそ、そして声を上げるからこんな被害に遭う。「ニュース女子」は、ひどい発言をした男性をたしなめることも批判することもなく、笑っている若い女性たちがいた。「なぜ韓国人が沖縄に?」眉をひそめながら、ヘイトスピーチに加担する彼女たち。今そこで自分たちの尊厳も踏みにじられていることが、これっぽっちも分かっていないように見えた。


「ニュース女子」は、複合差別を行った。私はこの番組を許さないし、抗議する。そして、淑玉オンニを支援する。オンニは、矢面にいつも立ってくれている。女が、マイノリティが声を上げると壮絶なバッシングを受ける。けれど、黙っていると差別はなかったことにされる。社会も変わらない。だから淑玉オンニは傷つきながらも、ずっとずっと闘ってくれている。それは、女性が闘わなくてもいい社会を作るためでもあり、マイノリティの誰かを守るためでもある。


淑玉オンニは「いまこそ、マジョリティが矢面に立って闘わなければ構造は変わらない。自分に火の粉が降りかからない限り動かない者が多数派の社会に、未来はないのだ」と記した。27日の記者会見でも、毅然と発言する淑玉オンニに勇気を貰った。けれど、淑玉オンニは今にも倒れそうにも見えた。私たちは淑玉オンニを支えなきゃ。デマは、いつかはマイノリティを殺す。そんな悲しい歴史、過去を知っているからこそ、今ここで食い止めなければならないと思う。未来を作るために、一緒に闘おう。
プロフィール著者プロフィール
李信恵
李信恵
1971年生まれ。大阪府東大阪市出身の在日2.5世。フリーライター。
「2014年やよりジャーナリスト賞」受賞。
2015年1月、影書房から初の著作「#鶴橋安寧 アンチ・ヘイト・クロニクル」発刊。

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