ドラルド・トランプ新大統領が掲げる「国境の壁」が、アメリカ国内外で、大きな波紋を広げている。4年の任期のうち、まだわずか10日ほどしか経っていないというのに、本当にこんな人で、アメリカと世界は大丈夫なのかと思えてくる。
安倍晋三首相が2月10日に、ワシントンで初のトランプ大統領との日米首脳会談を開くが、この先の日米関係が思いやられる。きっと経済貿易分野と安全保障分野で、トランプ新大統領はあのキンキン言うダミ声で、日本に法外な要求を突きつけようとしているのだろう。
ともかく、トランプ大統領が唱える「国境の壁」は、21世紀のグローバリズムの時代に完全に逆行した愚策である。
というわけで、ここから本題に移る。誰も話題にしないが、中国でも2月1日から、前代未聞の「国境の壁」ならぬ「市境の壁」が築かれるのである。場所は、かつて中華民国が首都にしていた江蘇省の省都・南京市である。
1月28日からの春節の大型連休で、南京出身の知人が、東京旅行のため来日して、再会した。
私は当然ながら、いま南京でホットな話題といえば、アパホテル経営者の南京大虐殺否定本を巡る騒動かと思っていた。ところが、そうではないらしい。彼は口を尖らせて、次のように吠えた。
「まったく本当に、トランプの『国境の壁』か、習近平の『積分落戸』かっていうくらい、わが国でも常軌を逸した制度を始めるものさ。しかも、わが故郷の南京市が、全国の出発点だという。
南京は昨年9月末に突然、市政府(市役所)の命令で、マンション購入時の頭金を、一夜にして従来の2割から8割に上げたのだ。この『限購令』(マンション購入制限令)によって、820万市民が大混乱に陥った。この時も南京市が第一号で、その後全国に『限購令』が広まっていった。
その時は、『棄購』(チーゴウ=購入放棄)という流行語が生まれたものだ。頭金が2割ということでマンションを買ったものの、突然制度が変更になって、8割だというのだから、購入放棄者が続出したのだ。なぜこんな制度改革を行ったかと言えば、マンションの価格を下げるためだという。われわれ南京市民は、ため息しか出なかった。
だが、今度はもっとひどい制度が始まる。きっと中国で、『棄戸』(チーフ=戸籍放棄)という流行語が生まれるよ」
この南京人が憤っている「積分落戸」(ジーフンルオフー)というのは、中国が始める、おそらく世界に類例を見ないであろう戸籍制度のことである。南京に移り住んで市の戸籍を取得したい人が対象だ。
南京市の戸籍の取得希望者の点数を積み重ねていき、その点数の多寡によって、戸籍を与えるかどうかを決めるという。具体的には、15項目の「南京市積分落戸指標」を定めて、合計で100点以上を得た人のみが、南京市の戸籍を申請する権利を得られる。
早い話が、「市境の壁」を築いて、望ましくない者は市民から除外するという「合法的人種差別政策」だ。
その15項目の大略は、以下の通りである。
以上である。何ともすごい制度が始まったものだ。