弾圧を逃れた人々が渡りついた自由の新天地。それが米国の成り立ちだったはずだ。

 現代に至るまで移民国家として発展してきた大国が、いまや建国の理念を見失い、自由の扉を閉ざそうとしている。

 トランプ政権の新たな大統領令である。テロの懸念がある国を指定し、その国民の入国を当面禁じた。シリア、イラン、イラクなど7カ国が対象となる。難民の受け入れも停止した。

 各地の空港で拘束された人々がいる。待望の渡米前だった難民家族も、迫害や苦難の中に取り残される。米国に暮らす移民らも不安に突き落とされた。

 あまりにも短慮で非寛容な政策というほかない。人道に反するだけではない。名指しされた国々が一斉に反発しており、世界の分断を招きかねない。

 多くの市民が抗議デモをし、一部の州政府も異議を唱えている。ニューヨークなどの連邦裁は、国外退去を見合わせるよう命じる仮処分を出した。

 米政界は、政権の暴走をこれ以上黙認してはならない。

 議会が行動すべきである。野党民主党は対抗法案をめざす構えだが、上下両院の過半数をもつ共和党こそ責任を自覚すべきだ。米国にも世界にも傷を広げる過ちを正さねばならない。

 この大統領令の題名は「外国テロリストの入国からの米国の保護」。対象となるイスラムの国々の人たちを一律に犯罪者扱いするかのように見える。

 トランプ氏はかねてイスラム教徒への嫌悪を公言してきた。政権は否定しているが、トランプ氏のそうした認識が反映しているのは間違いあるまい。

 オバマ政権はもちろん、ブッシュ政権もかかげたテロ対策の柱がある。それは、戦う相手は過激派なのであって、イスラムは友人である、との原則だ。

 米欧のキリスト教世界と、イスラム世界との憎悪の連鎖が深まれば、世界の危険度は増す。その配慮からオバマ氏は文明間対話をめざしたが、トランプ政権にその理解はないようだ。

 ここは国際社会も毅然(きぜん)と動くべき時だ。入国規制についてメイ英首相は訪米後に「同意しない」と表明。メルケル独首相とオランド仏大統領はトランプ氏との電話で直接懸念を伝えた。

 「テロとの戦いであっても、特定の背景や信仰の人々をひとくくりに疑うことは正当化できないと首相は確信している」。ドイツ報道官は明言した。

 身勝手な「自国第一」が蔓延(まんえん)すれば、それこそ世界の安全を脅かす。その流れを止める結束力が国際社会に問われている。