米国人の四割にあたる人が、その場所を通った先祖や身内を持っているそうだ。ニューヨークのエリス島である。一八九二年から約六十年間、移民局が置かれ、ヨーロッパから船でやって来る移民はここで審査を受けた。四割という数字に移民の国であることを再認識する▼エリス島では大半の人が入国を認められたが、2%程度が病気などを理由に拒否された。この島が「希望の島」と呼ばれる一方、「嘆きの島」という別名があるのは拒否された人の思いなのだろう▼だとすれば米国は「嘆きの国」とでも呼ばれたいのか。イスラム教徒が多いシリアなど中東・アフリカ七カ国の国民や難民の入国を一時禁止するトランプ大統領が出した大統領令である▼「国の安全のため」。そう説明するが、七カ国の人間全員がテロ予備軍とでも疑っているのか。第二次世界大戦中、日系人が強制収容された悲劇を連想する差別的、一方的な愚行である▼ドアを目の前で閉ざされた者が心に抱くのは、ドアを閉めた者への憎しみである。大統領令は国を安全にしない。新たな憎悪とテロの可能性を生むばかりである▼<心優しい世界に。憎しみや貪欲さや残忍さを人間が克服する、そんな世界に>。英国からエリス島に着いた青年はやがて俳優となり、映画でこんなせりふを書き、演じた。チャールズ・チャプリン。映画は「独裁者」である。