ライザップがアパレル分野への進出を本格化させているなか、経営幹部クラスの人材が続々と同社に集結中。IT戦略を担うのはユニクロの元CIO、成長戦略を担うのはソフトバンクの元戦略責任者だ。
文・緒方欽一(東洋経済 記者)
パーソナルトレーニングジムを運営するRIZAP(ライザップ)グループは1月16日、カジュアル衣料専門店・ジーンズメイトを買収すると発表した。アパレル分野で6社目となる買収で、これまで不明瞭だった狙いが明らかになりつつある。
買収はTOB(株式公開買い付け)と第三者割当増資の引き受けによって行う。3月末までにジーンズメイト株の63.99%以上を最大約24億円で取得する方針。筆頭株主である西脇健司相談役ら創業家は株を手放す。
ジーンズメイトの落日
ジーンズメイトは1960年に岡山県で創業した「西脇被服本店」が前身で、1978年にジーンズ小売業に参入。1990年代に首都圏を中心に展開し成長した。だが売上高は2000年2月期の247億円がピークとなり、近年は100億円を下回る。売上高のうち、ジーンズ主体のボトムスが占める比率は3割程度。若者のジーンズ離れもあってその落ち込みが続く。損益も2016年2月期まで8期連続の最終赤字と厳しい状況が続いている。
ジーンズメイトの再建に当たっては、ライザップのヒットでつかんだブランディング手法を注入する。ジーンズメイトの総店舗93のうち、ジーンズメイトブランドは69。残りは近年立ち上げた新業態店舗などが乱立ぎみであるため、その見直しをしつつブランド再構築を図る考えだ。
また、ライザップの祖業でもあるダイエット食品や美顔器、洗顔せっけんの通販で培ったチラシやネット広告などを用いた集客ノウハウも応用できそうだ。
グループの主力事業が、かつての美容・健康関連商品の通販からジム運営に変わったことで、買収の意味合いも変化している。
次々とアパレル企業を買収するライザップ
アパレル分野における最初の買収は、2012年4月の妊婦・乳児向けウエア通販会社のエンジェリーベだった。自社の美顔器などを買った女性を中心とする顧客に対し、こういった商品の購入を促すクロスセルを狙ったものだった。
今ではトレーニングでスリムな体形になった顧客に、グループのアパレルや補整下着などを売り込む方向にシフトしている。ジーンズメイトを手に入れることで、男性向けの商品も拡充できる。
ユニクロやソフトバンク出身者も登用(取材をもとに『週刊東洋経済』編集部が作成)" name="04rizap" />
買収を重ね規模が拡大したことで、スケールメリットを生かせる段階にもなってきた。今後は通販とアパレル事業の物流を統合する考えだ。さらに視野に入れるのは、企画・生産・販売のすべてを自社で一気通貫して手掛ける「SPA(製造小売業)への転換だ」とライザップグループの瀬戸健社長は語る。
CIOはユニクロから招聘
この構想はまんざら、はったりでもなさそうだ。最近登用され、38歳の瀬戸社長の脇を固める顔ぶれを見ると、その狙いが浮かびあがる。
まず、2016年11月に入社した岡田章二氏(51)。「ユニクロ」のファーストリテイリングに20年以上在籍、システム部長や執行役員CIO(最高情報責任者)などを歴任し、ファーストリテイリンググループ全体の業務改革と業務システムの構築、IT戦略を担った人物だ。ライザップでは、CSO(最高戦略責任者)兼CIOとして、各社のサービスをIT面で支える。
岡田氏の紹介で2月1日に入社するのが、宇山敦氏(53)だ。レナウンを経て入社したファーストリテイリングには2000年から2012年まで在籍。2002年のソルトレイクシティ冬季五輪と2004年のアテネ夏季五輪では日本選手団の公式ユニホーム開発責任者を務め、デザイナーのジル・サンダー氏とのコラボブランド「+J」を立ち上げた。
商品開発にとどまらず、ユニクロの欧米進出や商品開発機能の上海移管などにも携わっている。この宇山氏がライザップのSPA計画のキーパーソンと見られる。
買収子会社の社長を務める岩本眞二氏(54)、大西雅美氏(58)、濱中眞紀夫氏(54)も、アパレル業界に知見の深い人物だ。岩本氏は女性ファッション通販のスタイライフ(楽天グループに入り2013年に上場廃止)の創業者で、同社を上場に導いた経験を持つ。
“イケてる会社”の“良い時期”を知る人材を登用
グループ全体の成長戦略を練る作戦参謀には今年1月に入社した鎌谷賢之氏(42)を据えた。鎌谷氏は2009〜2014年、ソフトバンクに在籍しており、同グループ戦略の責任者として、「新30年ビジョン」のプロジェクトリーダーを務めた。
米スプリントやイー・アクセスなどの大型買収、ロボット事業などの新規事業にもかかわっている。その他にも、商品開発に定評のある小売り大手の幹部を採用する予定だ。
瀬戸社長は「イケてる会社で業績のよいときを知っている人間」を外部から登用していると話す。ただ、この豪華布陣も“結果にコミット”できなければ、単なる着膨れと揶揄される。果敢な挑戦は成功するのか。