THE ZERO/ONEが文春新書に!『闇ウェブ(ダークウェブ)』発売中
発刊:2016年7月21日(文藝春秋)
麻薬、児童ポルノ、偽造パスポート、偽札、個人情報、サイバー攻撃、殺人請負、武器……「秘匿通信技術」と「ビットコイン」が生みだしたサイバー空間の深海にうごめく「無法地帯」の驚愕の実態! 自分の家族や会社を守るための必読書。
January 30, 2017 08:15
by 江添 佳代子
「まったく政治経験のない70歳の億万長者が米国のリーダーに選ばれる」という大波乱を起こした2016年の米国大統領選は、ロシア発と考えられているサイバー攻撃、そしてWikiLeaksによって広められた膨大な暴露情報の影響を無視することができないものだった。そのため今後のトランプ政権を見守るうえで、プーチン大統領とWikiLeaksのアサンジの動向には多くの人々が注目している。
しかしもう一人、今後の動向が気になる有名人として忘れてはならない人物がいる。世紀の内部告発者と呼ばれた元NSA職員、エドワード・スノーデンだ。THE ZERO/ONEはこれまでに何度も彼の話題を取り上げてきた(※1)。今回は「米国の大統領選とスノーデン」、および「トランプ新政権の誕生とスノーデン」という部分に焦点を当ててお伝えする。
米国の諜報機関の活動内容を世界に暴露したエドワード・スノーデンが「いったい何者なのか」という解釈は、一人ひとりの解釈によって大きく異なる。
インターネット研究者やセキュリティリサーチャー、人権保護団体やハクティビストの多くは、彼を「世紀の偉業を成し遂げた人物」と見なし、「良心に従って世界中のネット市民の人権を守った英雄」「インターネットの構造そのものを救った男」など、さまざまな言葉で讃えている。
2013年ワシントンで行なわれた、政府による監視活動に関する抗議集会 Rena Schild / Shutterstock, Inc.
その一方で、「諜報機関の機密情報を暴露した米国の裏切り者」「ネット市民の不安を無意味に煽り、混乱をもたらした犯罪者」という意見もある。「立派なことを言っているが、米国より監視の厳しいロシアに亡命した彼の言葉には説得力がない」「目立ちたがり屋のアナーキストに世界が振り回されただけ」など、彼の行動を疑問視する声もある。
スノーデンは自身をどのように表現しているのか? 一例として2014年3月開催の「TED」にライブビデオで出演した際のスノーデンの発言を紹介しよう(※2)。このイベントの冒頭で、彼は次のように語っている。
「私が何者であるのかは、少しも重要ではない。もしも私が世界で最悪の人間であるなら、あなたは私を憎めばいい。本当に重要なのは、私が提起した問題にある。我々がどのような政府を、どのようなインターネットを、そしてどのような『人々と社会との関係性』を求めているのか。それらに関する議論が進められることを私は望んでいる」
米国における彼の評価、つまり「彼は英雄か、それとも裏切り者か?」の見解は、彼の名が知れ渡ったときから現在に至るまで二分されている。一般的な感覚で考えるなら、彼の行動は人権を重視するリベラル派の国民から支持される一方、強い米国を望む保守派の国民から憎悪されているはずだ……と想像されるかもしれない。大雑把に言えば、「トランプ支持層が彼を憎み、オバマ支持層が彼を讃えるはず」というイメージを持つ向きもあるだろう。実際、そういった傾向もあると筆者は感じている。
しかし彼を巡る議論は決して、保守かリベラルかで語れるほど単純なものではない。なにしろスノーデンが内部告発を行ったときの米国は、オバマ大統領が率いる民主党政権下にあった。そのため当時の共和党、つまり保守派の議員たちは、スノーデンが暴露した情報に注目し、「NSAの監視活動は国民の人権を著しく侵害している」と非難した。さらに保守派の弁護士ラリー・クレイマンらは2013年、「NSAのメタデータ収集プログラムは合衆国憲法修正第4条の『プライバシーの権利』に違反している」としてオバマ政権を訴える裁判を起こしている。
一方のオバマ大統領は2014年1月のスピーチで、NSAのプログラムはテロとの戦いのために、国を安全に保つために必要なものだったと説明した。そして「国の防衛は、国の秘密を託された者の忠誠心に依存している部分がある」「その人物が国の政策に反対するために機密情報を公開するなら、我々は国民の安全を保つことも、外交政策を行うこともできなくなってしまう」とスノーデンの告発を批判した(スピーチ全文はこちら)。つまり保守派がスノーデンを憎み、リベラルが擁護するという安直な図式は成り立たない。
2014年1月に行なわれた、NSAに言及したオバマ大統領のスピーチ
とはいえ、共和党の党員たちが「親スノーデン」だということではない。彼らの多くは彼を蔑みつつ、それとは切り離して「民主党政権下のNSAによる人権侵害」を批判していた(※3)。したがって、スノーデンは米国のほとんどの政治家たちから裏切り者の犯罪者と見なされたうえで、「彼の暴露した内容」だけがそれぞれの立場で利用されていたとも表現できるだろう。
(その2に続く)
※1 The ZERO/ONEで「スノーデン」を検索すると大量の記事が検索結果に上がってしまうので、簡単に案内したい。まず、スノーデンが行った内部告発については牧野武文氏の連載「ハッカーの系譜(5)エドワード・スノーデン」で非常に詳しく語られている。またドキュメンタリー映画『シチズンフォー スノーデンの暴露』の西方望氏によるレビューにも、スノーデンの軌跡が分かりやすく記されている。最近の話題としては、昨年夏の「スノーデンのデッドマン装置起動説」を伝えた記事がある。またNSAの機密情報を盗んだハッカー集団Shadow Brokersの正体や目的について「ロシアに亡命中のスノーデン」が詳しく語ったコメントの解説は、こことここから読むことができる。
※2 このときの彼は、遠隔操作で動けるロボット型のモニターでステージに登場した。その姿は「ビッグバン・セオリー」に出てきたMVPD (mobile virtual presence device)のようだった。興味のある方はぜひ動画を確認してほしい。ちなみに、この動画の開始27分あたりから登場し、興奮気味の口調でスノーデンに質問し、最後に「ロボスノーデンとの握手」を試みている人物は、WWWを考案した英国の科学者、つまりインターネットの父ことティム・バーナーズ・リー卿である。
※3 この件に関しては誤解のないように何度でも書いておきたいのだが、スノーデンが暴露した「NSAのプログラム」は、オバマ政権下で唐突に生み出されたものばかりではない。しかしブッシュ政権下で誕生した複数の計画や試みが、そのままオバマ政権に引き継がれたのちに加速したと評価する向きもある。いずれにせよ、両政権が「NSAによる世界の通信監視強化」を秘密裏に進めてきたことだけは間違いないだろう。
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