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【コラム】

筆洗

 実際には読んでいないのに、読んだふりをしている本は、どんな本か? そんなユニークな調査を、英BBCが昨年実施した。一位は『不思議の国のアリス』で、二位がジョージ・オーウェルの『一九八四年』。確かに、どちらも「読んでいません」とは言いにくい歴史的な名作だ▼だが、『一九八四年』は「読まれぬ名著」という地位を返上するかもしれない。世界各国で突然、ベストセラーになり、出版社は増刷に追われている。どうも人々が貪(むさぼ)るように読み始めたらしい。名作が読まれるのは、実に結構なことであるが、これがトランプ政権のおかげだというからおもしろい▼大統領就任式の観衆をめぐり大統領報道官は「過去最多」と言ったが、それは事実に反する。観衆の数という単純な事実すら曲げるのかと追及され、政権幹部は言った。「“もう一つの事実”を示したのだ」▼明白な事実や数字を権力者が都合のいいように変え、信じ込ませようとする。それこそオーウェルが描いた世界ではないかと読者は飛び付いたのだろう▼わが本棚に鎮座してきた文庫本(高橋和久訳、早川書房)を取り出したら、止まらなくなった。名作を読了できたお礼に、トランプ大統領に有名な一節を献呈する▼<自由とは二足す二が四であると言える自由である。その自由が認められるならば、他の自由はすべて後からついてくる>

 

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