北朝鮮は、米国のトランプ新政権発足を慎重に見守っているようだ。オバマ前大統領を罵倒してきた北朝鮮メディアも、新大統領への直接的な論評はしていない。
トランプ氏は選挙戦中の昨年6月、北朝鮮の金正恩氏が米国に来るなら話に応じるが、ハンバーガーしか出さないと言って話題となった。選挙演説を盛り上げ、笑いを誘おうとしたようにも見える語り口だった。
トランプ氏はこの時、「10%か20%は(核放棄に応じさせられる)可能性がある」と主張した。根拠を示さない希望的観測は「ポスト真実」に通じるものだろう。
だが、オバマ前政権で情報機関を統括したクラッパー国家情報長官(当時)が昨年10月の講演で吐露した見方は全く違う。「北朝鮮を非核化させる見込みはおそらくない」と述べたのだ。「戦略的忍耐」と呼ばれた前政権の政策は結局、北朝鮮に核開発を進める時間を与えただけに終わった。
北朝鮮は冷戦終結直後の1990年、韓国との国交樹立を通告したソ連に独自核武装の考えを通告したとされる。核の傘を提供していた同盟国から見捨てられ、反発した北朝鮮なりの対応策だった。
北朝鮮が安全保障上の脅威とみなすのは、朝鮮戦争で戦火を交え、現在も日韓に強力な軍事力を展開する米国である。だから、米政治の中枢であるワシントンを攻撃できる核ミサイルの開発を目指している。
金正恩氏は今年の新年演説で米本土を狙う大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発が最終段階にあると主張した。トランプ氏は直後にツイッターで否定的な考えを示したが、これまでの開発ペースを考えれば夢物語とは言えない。
厳しい経済制裁を行っても、中国が非協力的な態度を取れば効果はない。そもそも北朝鮮は地下資源が豊富で技術の蓄積もあるので、制裁を加えても核・ミサイル開発には痛手とならない恐れすら指摘される。
北朝鮮の「瀬戸際戦術」は生き残りをかけた戦いである。冷戦終結で国際的孤立を深めてから四半世紀の間、北朝鮮はこの戦術で米国との交渉を進めようとしてきた。それなりに効果を上げたこともある。
トランプ氏は、北朝鮮に大きな影響力を持つ中国に任せればいいという趣旨の発言もしている。だが、米国が何もしない間にも北朝鮮の技術開発は着実に進んでいく。米国が当事者であることは否定しようのない現実である。