離婚に伴う親権、さらに離婚後の子供との面会をめぐる争いに一石を投じたのではないか。
別居中の両親が、9歳の長女の親権を争った訴訟で、東京高裁が長女と同居する母親を親権者とする判決を言い渡した。
この訴訟では、離れて暮らす父親が、離婚して親権を得た場合に年間100日の面会を母親に認めると1審で主張した。千葉家裁松戸支部はこれを評価し、父親の親権を認めた。相手側に友好的な「寛容性の原則」を重くみた異例の判断だった。
一方、東京高裁は、長女が安定した学校生活を送っていることや、母親と一緒に暮らしたいと言っている事情を重くみた。従来通りの「継続性の原則」に沿った司法判断だ。
判決の評価は難しい。父親側の代理人は、7年前に母親が無断で子供を実家に連れ帰った経緯を指摘し、「先に子供を連れ去り、もう一方の親の悪口を吹き込めばいいということになってしまう」と批判した。
子供の平穏な生活が妨げられることは両親の本意ではないだろう。適切な面会の実現など、双方が妥協点を探ることが大切だ。
離婚件数は年間約22万件に達する。少子化の影響もあり、子供の奪い合いも少なくない。離れて暮らす親が子供との面会交流を求め家裁に起こす調停の件数もこの10年で倍増し、年間1万2000件を超える。
2012年に施行された改正民法で、離婚の際に子供の利益を優先して、面会交流や養育費の支払いについて取り決めることが明記された。
だが、面会の日数でもめたり、約束した面会が実現しなかったりするケースが少なくないという。
まず、優先すべきは争いに巻き込まれてしまう子供の意思や利益を十分に尊重し、幸福を考えることだ。
13年に家事事件手続法が施行され、おおむね10歳以上の子供は、離婚や面会をめぐる調停に関与できるようになった。弁護士を代理人として依頼できる権限も認められた。
両親の争いは泥仕合になりがちだ。第三者的な「子供の代理人」が入れば、子供にとってよりよい解決策を導くことが期待できる。積極的に活用すべきだ。
争いを未然に防ぐため、公的機関を含めた相談態勢を充実させることも喫緊の課題だ。婦人相談所や各市町村などが自主的に設置する女性センターがあるが、ドメスティックバイオレンス(DV)などへの対応に追われ、面会相談まで手が回っていない。
面会の実現を図るための法案を議員立法で今国会に提出する動きもある。結婚の破綻は子供の責任ではない。子供への悪影響を最小限に抑える方策を考えるのが大人の務めだ。