慣用句で「あの人は、箸の上げ下ろしにまで口を入れてくる」というものがありますね。
細かな動作やつまらないことに対しても、いちいち口やかましく指摘してくる場合に用いる言葉です。
この慣用句を見てふと思ったんですが、箸の使い方に関するマナーについては、聞いたことがある人が多いと思います。
握り箸や迷い箸、刺し箸といった、間違った箸の使い方については、小さいころに両親から教えてもらったことがある人も多いのではないでしょうか。
でも、慣用句にもなっている、箸の上げ下ろしに関してはどうなんでしょう。あまり意識したことは無いのではないでしょうか。
そんなことを思ったんで、今回は、箸の上げ下ろしのマナーについて書いてみたいと思います。
箸先は左に向けて置くもの
和食の配膳は、飯椀が左側で汁椀が右側になりますよね。
箸は、その手前に横に置くものとされています。
その際、箸先は左向きに置くのが作法とされています。
これって、よく考えたら不思議な作法なんですよね。
右手で箸を持つ場合は、箸先が右側を向いて置かれていたら、ワンアクションで取り上げることができるんです。
箸先が左側を向いているから、右利きの人は両手を使って箸を取り上げなければならないんです。
箸先が左を向いていなければならない理由が何なのか、調べてみたら、古代中国の思想に遡らなければならないほど、深い歴史と理由があるようです。
左と東
古代の中国では、東というのは太陽が昇る特別な方角であるという思想がありました。
また、中国の古典には「天子ハ南面ス」という表記があります。
中国の皇帝は、南向きに座り、臣下に命令を下していたそうです。
昔は人が何か作業する場合は、明るい方向に顔を向けて座っていたからだそうです。現代のように、夜も明るく照らしてくれる照明がなかった時代には、当然のことなのかもしれませんね。
こうした故事から、人々を正しい方向へ導くという「指南」という言葉が生まれたと言われています。
南を向いて座ると、左側が東、右側が西の方角になりますよね。
箸先を太陽の昇る特別な方角に向けると、左側になります。
古代中国では、東の方向に箸先を向けることで、太陽がもたらす生命のエネルギーを、体内に取り込もうという思想が生まれたとされています。
この思想がもとになり、どちらを向いて座る場合も、箸先が左を向いて配膳されるようになったと考えられています。
箸のとり方
置いてある箸をとる場合は、右手→左手→右手という3つの動作を行うのが作法とされています。
箸の真ん中あたりを右手の指3本で持ち上げ、左手の手のひらを上にして、親指の先端と向かい側3本の指で箸を下から受けます。そして右手を箸から離さず、滑らせるようにして箸を使いやすい位置に持ち替えるのが、正しい箸のとり方とされています。
箸の置き方
箸を置く際は、とる際の動作と逆の動作をすればよいとされています。
左手の手のひらを上にして、箸を受けます。右手は箸から離さず、滑らせるようにして上側に移動します。置く際は、両手で置き、片手ずつ離すのが良いとされています。
3つの動作で箸を扱う理由
両手で箸を扱えば、仕草が美しくなります。それ以外に箸を3つの動作で扱う理由を挙げるとするならば、箸を落とさないためではないでしょうか。
太陽の持つパワーを取り込むために、左側を向いて置かれるようになった箸。そんな神聖な力と想いが込められた箸を、落とすなんてバチ当たりな行為だと、昔の人は考えたんだと思います。
箸の上げ下ろしにまで口を入れてくるような、口やかましい人。果たしてその人はどんな箸の上げ下ろしをしているのか、ちょっぴり気になっちゃいます。