goo

武雄市図書館再訪、一年半を経た図書館の実状

『図書館の基本を求めて』より

入館者数の数値とその不適切さについて

 武雄市図書館は図書館・歴史資料館と蔦屋書店・スターバックスによる複合施設である。後者は目的外使用の商業施設であって図書館ではない。「入館者数」はこの建物全体の入口でカウントされた複合施設の入館者数であり、図書館の入館者数ではない。

 改修により建物内部は大きく変化したが、建物そのものは同じである。改修前の施設では、図書館の開架フロアのほかに歴史資料館(蘭学館)、企画展示室、メディアホール、書庫、事務室等があり、図書館開架フロアは建物全体の床面積の三分の一以下で、そのフロアのみが区切られ、その入口に資料盗難防止のためのBDS装置が設置されていて、そこを通る人が図書館入館者数としてセンサーでカウントされていた。返却のみを目的に来館した人は、BDSの手前で返せるようになっていたので、入館者数には入らなかった。

 それが改修後の現在の図書館では、蔦屋書店とスターバ″クスによる目的外使用としての商業フロアが、入口から窓側前面にかけての、もっとも広々としたメインフロアを占めている。BDSは建物正面の出入口と、もう一個所、側面の出入口に設置されていて、前面の商業フロアを含む建物全体への入館者が「図書館入館者数」という数値として発表されている。

 商業フロア(七四五・一㎡)と図書館開架フロア(一五七一・七㎡)の面積比はおおよそ一対二であり、商業フロアの面積の割合は非常に大きい。建物全体の延床面積は三六三〇㎡。商業フロアと図書館開架フロアに、蘭学・企画展示室とメディアホール、ロビーやトイレなどを加えた、事務室・機械室等管理スペース以外の市民が利用できるフロアは、図面上では三〇〇〇㎡くらいで、図書館開架フロアの二倍近くになる。この施設全体への入館者数が、「図書館入館者数」とされ、二〇一一年度の図書館開架フロア(書庫を含めても一一四〇㎡)に限られていた図書館入館者数と対比され、二〇一三年度の入館者数が二〇一一年度の三・六一倍になったという武雄市の発表は、きわめて不適切な比較なのである。

 入館者数に対して、貸出利用者数(一六万七八九九人)は一八%にすぎず、八二%の入館者は本を借りていない。図書館の利用者の中には、新聞や雑誌を読みに来る人や、閲覧のみの人、持ち込み勉強だけを目的とした中高生もいるから、貸出利用者数よりも入館者数が多くなるのは当然だが、それにしても図書館へ来た人のうち、本を借りた人の割合が一八%というのはあまりに少なすぎる。通常は、図書館の入館者数は、多くても貸出利用者数の三倍程度なので、武雄市図書館で約五〇万人と予測すると、残りは図書館開架フロア以外のみ利用した人となる。

 また全国の図書館においては、「滞在型図書館」と呼ばれる図書館(開架フロアで、ゆっくりと本や雑誌の閲覧をしたり、調べもののために長時間を過ごしたりするタイプの図書館)においてさえ、開架フロア(イベント用の集会室の利用は含まないとして)の入館者数と貸出冊数を比較すれば、ほとんどの場合、入館者数より貸出数の方が多いのがふつうである。以上により推定すると、武雄市図書館においては、九二万人と発表されている入館者数のうち、図書館開架フロアヘの実際の入館者は、多めに推測しても、貸出数に近い五五万人から貸出利用者数の三倍の五〇万人程度である。残りの四〇万人前後の人たちは、蔦屋書店・スターバックスと展示・イベントの部屋のみの利用者、あるいは見学だけ目的とする人たちである。図書館開架フロアヘの実質的な入館者は、二〇一一年度と比べると、せいぜい二倍程度かそれ以下であろう。

 見学時に、午後、夜間、午前の三回、ブロック別に利用人数を数えてみた。時間帯により違いはあるが、全体としては、商業フロアの人たちの数の方が、図書館フロアの人数よりも多かった。夜間は持ち込み勉強の高校生が多い。スターバ。クスを利用している人たちが数としてはもっとも目立つのだが、ここでは、販売用の雑誌や本は手にとっても、図書館の本を閲覧して読んでいる人はほとんど見かけない。この実状は、図書館開架フロアヘの入館者数が五五万~五〇万人程度という上記の推定を、おおよそ裏付けている。

 これがさらに、二〇一四年度の四月~九月の入館者数では、二〇一一年度同時期の三・〇九倍にまで落ちている。後半期が仮に同じ倍率を保ったとしても、実質的な年間「図書館入館者数」は、二〇一一年度の二倍をかなり下回る数値となることが予想される。実は改修前の図書館においても、もっとも入館者数が多かった二〇〇七年度は、約二九万人に達していた。この数値と二〇一四年度の「実質的な図書館入館者数」を比較すると、約一・六倍にすぎない。

貸出冊数はわずかしか伸びていない

 貸出数は二〇一一年度の一・六倍である。旧図書館時代でも、二〇〇九年度は約三八万点だったので、これと比較すれば約一・四倍である。この程度の増加で、成功だったと評価できるだろうか。

 開館時間は、一日一二時間三六五日開館により、二〇一一年度の約一・八倍になった。これだけでも、開館時間の増加に見合うほどの貸出の増加にはならず、時間当たりの貸出数は減少して、貸出増加分の成果が物足りないことがわかる。そのうえに、市が改修のために費やした経費は四・五億円(CCCは別に三億円)、その他さまざまな「市民価値」を打ち上げたのに、その効果は貸出の数字には反映されず、この程度の貸出増加しか達成できなかった。経常経費としての図書館費も約三千万円増加しているので、少なくとも貸出サービスについては、費用対効果は小さくて、無駄が大きかったことになる。

 二〇一四年度四月~九月の貸出数は、二〇一一年度比でさらに一・四一倍にまで落ちている。二〇〇九年度との比では約一・二五倍にすぎない。

 さらに、登録者数と貸出利用者数のうち、市内在住者は各々三五・一%と五六・四%である。旧図書館時代には、市外県外の利用者の割合は少なかったはずだから、武雄市民に限れば、貸出数は増加どころか、むしろ減少したかもしれない。

 武雄市外の人たち、特に県外の人たちの利用は一時的なものであり、おそらく継続はしない。当初の話題性が収まれば、急速に減少するだろう。武雄市民の利用がよほど伸びなければ、何年か後、長時間開館や莫大な経費を費やした改修は、一時的なお祭り騒ぎを招いただけの壮大な無駄だったという結果になりかねない。

 実は樋渡武雄市長(当時)は、二○一二年五月四日に東京都内でCCCの増田社長と共回記者会見をして、武雄市図書館のCCCへの指定管理を華々しく発表した後、同日に佐賀県庁でも記者会見をしている。その際、記者から、新図書館ではどのくらいの利用増を見込んでいるか尋ねられ、二〇一一年度の年間貸出冊数は三四万冊だが、新図書館では「ま、一〇〇万冊でし予っね。うん、それは行けると思いますヒ旦と豪語してみせた。結果を見ると、ホラに近い大風呂敷だったが、当初は市長自身も、新図書館では入館者だけではなくて、貸出も何倍にも大幅に増加すると見込んでいたのである。

 また、樋渡市長は、二〇一三年六月七日の讀賣新聞で、「TSUTAYAもスターバックスも図書館の魅力をいろんな人に伝え、本の良さを知ってもらうためのきっかけで、それ自体が目的ではない」と語っている。開館二か月目では、貸出数は二〇一一年度の二倍だったので、このような言い方をする余裕があったが、やがて貸出増加の比率は月を追って減少し、市長による武雄市図書館の実績のアピールは、もっぱら入館者数に限られるようになり、一方で貸出については、「無料貸本屋にはならない」といった発言をするようになった。つまり、市長自身にとっても、貸出数はおそらく予想外に低調であり、言い訳が必要になってきたのである。

 二〇一一年度同時期との利用の比率を半年ごとに追うと、入館者数は三・七六、三・四三、三・〇九と、貸出数は一・六九、一・五一、一・四一と、確実に減少を続けている。二〇一四年度は、二〇一三年度よりも相当数値が落ちるのは確実である。さらに三年後、五年後にはどうなっているだろうか。図書館は一時的に話題を呼ぶための施設ではない。今後、二〇年も三〇年も、継続して、発展的に市民に利用される施設に、なり得るだろうか。

予約サービスにはきわめて消極的

 予約件数は八三五〇件で一日平均わずか二三件である。貸出数に対する予約件数の割合は一・五%である。全国の市区町村図書館の集計では一三%なので、武雄市図書館の予約件数がいかに少ないかがわかる。

 利用案内にも予約の案内は出ていない。ホームページには案内があるが、所蔵していない資料は購入して応えるという案内はない。館内に予約案内の掲示はないし、予約カードも見当たらない。カウンターで尋ねてみると、「予約・リクエストカード」というA4の用紙を出してもらえたが、用紙の上半分は注意書きで、「口上記注意事項を確認・了承しました」にチェックを入れてはじめて予約できるという厳めしい形式になっている。読みたい本が棚に見当たらなければ気軽に予約を申し込む、という雰囲気ではないし、図書館側にも、利用者の資料要求に必ず応えるという積極性に乏しい。これでは仮に読みたいと思う本があっても、利用者の中には最初から遠慮してしまう人も多いであろう。

 特に問題なのは所蔵しない本への対応である。所蔵しない場合は、まず県内の他の図書館へ貸出を依頼し、他館から貸出を受けられない本の場合、武雄市図書館で購入するかどうか検討するという順序になっている。

 ふつうはどの図書館でも、所蔵しない本のリクエストが出れば、これを機会に、まず購入するかどうかを先に検討する。図書館でまだ買っていない本の中にも、購入したい本や蔵書として相応しい本はたくさんある。選書の時に見落とした本もあり、その中には、すでに書評などで評判になっているのに、地味な内容であるために見落として、リクエストによって初めて気づかされることもある。資料費の一部分は、リクエストによるこのような購入に当てて、他館に頼るのは、自館の資料収集方針の範囲を越える内容の本や絶版・品切れの本に限るのがふつうである。各図書館の自立したサービスのうえに、図書館間の相互協力が活発に展開されるのであり、新刊書であれ評判の本であれ、たまたま所蔵していないからといって、最初から他館にまず寄りかかってしまったのでは、貸し出す側の図書館もたまったものではない。結局、利用者の方から、リクエストをためらうことになるし、予約サービスの活発な展開は到底望めない。

 資料案内やレファレンスサービスの統計的な数値は公表されていない。ただ、年間のコピー枚数は一五二六枚という数字が県立図書館に報告されている。一日平均四・二枚で、調べものをしてコピーするといった図書館利用は少ないことがわかる。

 地域・郷土資料は壁面のガラス戸付きの書架に収められていて、カギが掛かっている。別に貴重書ではない、通常の地域・郷土資料が、自由に手にとって見たり、調べたりできない。最近の武雄市議会会議録のような単純な行政資料までが貴重書扱いである。これでは調べものをする以前に見るのをあきらめてしまう人が多いだろうし、職員も手軽に迅速に、地域・郷土資料を利用して調べることができないだろう。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 豊田市図書館... 選挙による民... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。
数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。