2017年1月29日05時00分
学ぶ機会を十分に得られなかった人が通う夜間中学。山田洋次監督の映画「学校」で存在を知った人も多いのではないか。
その充実を目的のひとつとする教育機会確保法が、来月全面施行される。学び直しの場を広げるきっかけとしたい。
夜間中学は戦後の混乱期に、仕事や家の手伝いなどで学校に通えない子のために始まった。
いまは中学を卒業できなかった中高年だけでなく、不登校だった子どもや外国から移り住んだ人も集う場になっている。
だがその数は、東京、大阪、神奈川など8都府県にわずか31校しかない。
もっと需要があることは、14年に文部科学省が行った調査から明らかだ。ボランティアらで運営する「自主夜間中学」は、識字学級もふくめて全国に約300カ所あり、夜間中学の4倍以上にあたる約7400人が通っているという。
確保法はこうした状況を踏まえ、夜間中学の設置や自主夜間中学の支援などを行い、希望する人に就学の機会を提供するよう自治体に求めている。文科省も「都道府県に1校以上」という目標をかかげ、来年度予算案に自治体の新設準備についての調査研究費を盛り込んだ。
国と地方が連携して、事態を前に動かしてもらいたい。
文科省は、施策を総合的に進めるための基本指針づくりに取り組んでいる。現場の実情をよく知る教職員やボランティアの声をていねいにくみ上げ、指針に反映させてほしい。
学校の設置だけでなく、教育条件の整備も欠かせない。
年齢や国籍、学習の習熟度が様々な生徒を指導するには、一般の学校を上回る数の専任教員が必要だ。力量も問われる。
生徒への経済支援はどうか。
普通の小中学校に通う子どもについては、学用品や給食、通学などにかかる費用の一部を、国や市町村が援助する制度がある。夜間中学を設置している自治体の多くも同様の支援をしているが、「支給期間や対象が限られるなど十分とは言えない」との声がある。新法の趣旨を踏まえた充実策が必要だ。
夜間中学のなかには、生徒が昼の中学の文化祭に行ったり、逆に昼の生徒が夜の授業を受けたりして、勉強する意味や喜びを確かめあっている例がある。外国人が日本語を学び、日本の習慣を身につけることは、互いの垣根を低くして、住みよい地域社会づくりにつながる。
「わがこと」として、学びのセーフティーネットを厚くする営みを重ねていきたい。
トップニュース
新着ニュース
おすすめコンテンツ