2013年4月24日、バングラデシュ・ダッカ郊外にある縫製工場ビル「ラナ・プラザ」が倒壊。死者1,100人以上、負傷者2,500人以上もの犠牲者を出す大惨事となりました。
米メディアは、事故から現在に至るまで、その後の状況や政府・企業の対策を何度も報道。一年が経過した今、再び注目が集まっています。
なぜこれほどにこの事故が注目されるのか、明らかになった問題や事故後の国や企業の対策を追ってみたいと思います。
欧米が事故に注目する理由
この事故が注目されている理由のひとつは、バングラデシュでは以前から建物崩壊や火災による縫製工場での死亡事故が多発していたことです。64人の死者を出した2005年の縫製工場ビル倒壊事故を皮切りに、10年の工場火災では死者29人、12年の工場火災では100人以上の死者を出しています(Canada CBC)。
同国の縫製工場で事故が多発するのは、建築基準や労働基準が緩いうえに遵守されていないため。ラナ・プラザでも違法増築が行われており、倒壊前日に建物支柱に亀裂が見つかり避難警告が出されたものの、工場責任者が従業員に翌日出社させ業務を開始したことが、大事故に繋がった要因と見られています(ガーディアン)。
もうひとつの理由は、これら工場に縫製を依頼していたのは、欧米の大手小売・アパレル企業だったことです。
バングラデシュは中国に次いで世界第2位のアパレル輸出国。輸出先の60%が欧州、23%が北米と、両者で80%以上を占めています(日本は2%)(BGMEA)。
自分たちが購入している製品の生産工場で起こった事故ですから、欧米の消費者にとって対岸の火事では済まされません。事故が起こる度に、メディアや市民団体は小売・アパレル各社を非難。同国での安全基準を改めるよう、要請していました。
しかしながら、同国内の対策は一向に進まず、千人以上もの犠牲者を出したラナ・プラザの事故が世界中の注目を集めたことで、ようやく国や企業が真剣に対策を取り始めました。
同じ目的をもつ、ふたつの国際同盟
事故の3週間後、国際労働機関やNGOが中心となり、バングラデシュ縫製工場の安全性確保のための国際合意「アコード(バングラデシュ火災・建物安全合意)」が創設されました。
欧州からはH&Mやインディテックス(ザラ)、カルフール、アメリカからはカルバン・クラインやトミー・ヒルフィガーを傘下に持つPVHなど、多くの企業が参加を表明しました。
世界的に足並み揃えて取り組み始めるかに見えましたが、ウォルマートやギャップなど米大手企業がこれに反発。同合意は法的拘束力があるため、訴訟や予期せぬ義務が発生する可能性があるとし、米上院議員らのサポートを得て独自の同盟「アライアンス(バングラデシュ労働者安全同盟)」を発足しました。
ひとつの目標を達成するために、ふたつの国際同盟ができ、互いに優位性を主張しあうようになってしまいました。
現在、アコードには欧州企業を中心に北米を含む世界各国の150社以上が署名。会員企業が提携するバングラデシュ内の工場は1,600以上に上ります。一方、アライアンスには北米大手企業26社が参加し、提携企業は700以上。日本からは、ファストリテイリング一社のみがアコードに署名しています。
どちらも5年間の期限付き合意で、会員企業から資金を集め、全提携工場の査察と安全性の訓練を行うというもの。安全基準に満たない場合は同国政府に報告し、修繕するまで工場の稼働を強制停止します。
修繕費用は、アコードは会員企業が何らかの形で資金援助を行いますが、アライアンスは当初ローン保証のみとしていました。しかし、競争意識からか、メディアに煽られたためか、現在では各会員企業が修繕費用として計1億ドルの資金援助を行うことを約束しています。
稼動停止中の労働者への賃金保証は、アライアンスは会員企業が半額を保証、アコードは労働者への賃金支払いを強制するものの資金援助は行いません。しかし、アコードには現地労働組合も名を連ね、労働者視点であることを強調。期限中に会員企業が生産拠点を他国に移さないことも約束しています。
いずれも一長一短あるようですが、両者とも既に多くの工場の査察を完了。稼動停止している工場もあります。
ただし、両者合わせても提携工場は2千強。バングラデシュには5千以上の縫製工場がありますから、残りの3千はどこが査察責任を負うのか懸念されています。同国政府も査察を行っていますが、時間がかかるでしょうし、安全性に問題があった場合に修繕費用が賄えるのか疑問です。
欧米政府の対応
一方、欧米政府も対策を行っています。
米政府は、労働者の安全基準が確立するまでバングラデシュへの関税優遇制度を一時停止することを、昨年6月に発表。EUは、経済制裁は行っていないものの、バングラデシュ政府に対し労働法の改正や縫製工場の安全基準改善を要請しています。
こうした各国の圧力により、役人と企業の癒着が徐々に改善に向かい始め、火災事故で死者を出しても処罰を免れていた縫製工場経営者らが、法的に罰せられるようになってきています。(Time)
生産時の労働者の安全は、誰が責任を負うのか。生産を依頼する企業なのか、工場なのか、政府なのか、議論は続いています。
途上国にとってアパレル生産は国家発展の鍵を握る経済の要ですから、アコードの誓約のように、問題が起こっても安易に他国に移転せず、サポートしながら生産を続けることが、国際社会における企業の責任といえるのかもしれません。
そして、多額の費用をかけて社会責任を果たそうとしている企業を支持し、製品を購入する際に価格の裏にある生産背景を考えることが、消費者の責任といえるのではないでしょうか。
※Yahoo!ニュースからの転載
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