DRAGON QUEST3外伝

いろは伝奇

第十部「ゾーマ」

第三章「壮士たちの挽歌」
(イ、イナホ……? あなたが?)
 深く暗い意識の中、優しい微笑をうかべステラの脳裏に現れた女性。いろはと同じような雰囲気を持つ女だった。あのマサールとバラモスを倒す旅に出るも志半ばで倒れた男装の女戦士イナホ。ステラの持つ『イナホの剣』は、マサールの手を経て、そのイナホから受け継いだ剣である。
(戦士ステラ……私はずっと冥府からあなたを見ていました。そして私の父と母を殺したバラモス……その敵を私の愛刀で果たしてくれた礼……それをずっと言いたかった……)

 ステラの首の傷、それに手を触れていろははベホマを唱えた。だが一向に傷はふさがらなかった。
「!?」
「クッククク……ムダよ僧侶の娘。その戦士の女を斬った武器は呪われておるでな。回復呪文じゃ元に戻らん……」
「クッ! どこまでも卑怯な!」
 ザルトータンはその呪われた武器をいろはに見せながら笑った。まがまがしい柄と刀身、『はかいのつるぎ』と銘されているものである。
「卑怯? どうして私たちがお前たちの言う正々堂々と云う流儀に付き合わなくてはならぬ? これは実戦だ。そんなフェア精神などありはせん。やったもの勝ちなのだ。このようにな!」
 はかいのつるぎをザルトータンは勢いよく振り下ろす。するとその衝撃が波動となってアレル、ホンフゥ、マリスに襲い掛かった。それと同時にカトゥサはイオナズンを炸裂させる。並みの冒険者なら、この同時攻撃でヴァルハラの住人となるであろうが、アレルたちは今まで数え切れない修羅場を経たパーティーである。たとえ三人の戦闘体勢でも慌てる様子も無く凌いでいた。ゾーマの城一階、そこは死闘の場となった。

(暗い……どんどん意識が遠のきます……これが死なのですね……もうすぐカンダタやイナホさんのいるところへ私も行くのですね……)
(ステラさん……まだ私のところに来てはいけません……私がただ一人、刀身を預ける主人は世界で貴方だけです……今こそお役に立たせてもらいます……)
(イナホさん……)
 ステラの右手に握られている『イナホの剣』。元は普通の武器屋で買った『はがねのつるぎ』であるが、イナホによって柄に少し細工が施されている。マサールと共に冒険のための世界地図を作る旅をしていた時に立ち寄ったポルトガ国。
 この城下の露店でイナホはギヤマン(ガラス)の玉を買った。水晶や宝石を買う金など二人には無かったからである。二つの同じ色のギヤマンの玉。現在もマサールは首にネックチェーンをつけてぶら下げているが、イナホは自分の愛刀の柄に取り付けた。
 そのことはステラもマサールから聞いている。ゆえに彼女は冒険中に特殊なチカラを込めた宝石を手に入れても決してギヤマンの玉を外して装着しようとはしなかったのである。

 コジロウ、サスケの鍛冶技術の総結集と云っても良い『イナホの剣』であるが、ここまでステラを助けてきたのは、このギヤマンの玉の中に宿っていたイナホの魂なのかもしれない。
 マサールがこの剣を握るに相応しいと思ったように、イナホもまた自分の魂の宿る剣の主に相応しいと感じたのだろう。そしてそのイナホの魂は若き剣の主のためにチカラを放つ。
 ステラの持つ『イナホの剣』の柄に埋め込まれているギヤマンの玉が光を放ち始めたことに、いろはも気づいた。
「柄の……柄の玉が?」
 やがて光は剣を包み、そしてステラの体をも覆い始めた。
「この『気』……まさか……『気孔』?」

『イナホの剣』より放たれた光の波動。それは雪深い未開の原野に住むジパングのエッゾの人々が先祖より伝えてきた『気孔』と呼ばれるものである。
 しかしいろはの世代のころには使いこなす者もいなくなり、幻と呼ばれている技であるがジパングの開祖スサノオのいた時代では外科的な負傷の治癒に絶大なチカラを発揮した。クシナダの妹イザナミが持っていたチカラと言われているが、習得は難しく現在のエッゾでは廃れてしまった技である。
 戦士イナホはエッゾの生まれではあるが、生存中にこの技を使えたかと云うのは残念ながらマサールの回顧録等にも記されてはいない。
 しかし、先祖伝来の北方の血と自分の意思を継ぎバラモスを倒してくれた主を助けたいと願うイナホの気持ちがこの奇跡を起こしたのかもしれない。
 暗闇の中、ステラの前に立つイナホは手を合わせ、精神を集中させている。
「マサールの目は正しかった……よくぞ私の剣を貴方に託してくれました……だから私も全力で貴方とマサールに応えます……さあお立ちなさい……そして仲間たちと共に進むのです……」
「だめ……だめなんです。私の最愛の人が目の前で死んでいきました……戦って勝利した先に……私の光はないのです……」
「それなら心配はいりません……」
「え?」
「私は見ました……六つの小さな光があの若者を包むのを……」
「え?」
 ステラにはイナホの言葉が分からなかった。そして意識がもうろうの中、耳に飛び込んできた言葉があった。

「ステラ――ッ!!」

「……え!?」
「やはり戦士の女が好きになる男はみんな共通しているのでしょうか……あの若者の瞳、私が大好きなマサールの瞳と似ています。意思を宿した男らしい目……」
「イ、イナホさん……」
「私がステラさんを助けられるのはこれが最初で最後……私も帰るべきところへ帰ります。しかし、私の意志は剣の命となり、貴方と常に共にあります……」
「イナホさん……」
「さあ、行くのです! ステラさん。彼の瞳の意思に応えるために!」

 倒れていたステラの瞳がカッと開き、そしてガバッと起き上がった。
「ステラ!」
「いろは……さっきの声……」
 いろはは瞳を潤ませてうなづき、指した。そしてそこにはザルトータンを魔神の斧で一刀両断しているカンダタがいた。

「…………!!」
「足はついているぜ、ステラ」
「アニキ!」
 まぎれもなく自分の兄カンダタがそこにいた。マリスはカトゥサと対峙しているのも忘れ抱きついた。
 今度はニセ者じゃない。兄の肌に自分の頬が触れた瞬間にマリスは確信した。カンダタの体はずぶ濡れで急いでこの場に駆けつけたのが分かる。先刻に斬られた足も回復呪文で治療された形跡がある。何者かがカンダタを救ったのである。
「カンダタ……おまえどうやってあの海から……」
 左足に重傷を負ったままカンダタはあの荒波に飛び込んだ。後に続いたモンスターも一頭も浮かんでこなかったというのに、どうしてカンダタは助かったのか。アレルの疑問は無理もない。それはホンフゥも同じだ。
「それと左足……治っているじゃねえか……」
 カンダタはふところから海水に濡れた赤いバンダナを出して、それを頭に巻いた。
「話はあのカトウサンを倒してからだ」
「カトゥサだ……フン、我はザルトータンと違うぞ……」
「だろうな。でなきゃガッカリするところだ」
 不敵な言い方をするカンダタにカトゥサは激怒した。
「調子に乗るな! 死にぞこないがあ!!」

 カトゥサはザオリクを唱え、相棒のザルトータンを蘇生させた。そして間髪いれずにイオナズンをパーティーに放った!

 ドオン!

 蘇生したザルトータンもはかいのつるぎを振り下ろし、破壊の波動をパーティーに発射した。アレル、カンダタ、マリス、ホンフゥはその波状攻撃を凌ぎ続ける。
「ステラ! 合流します。六人であの二体を倒すのです!」
「OK!」
『イナホの剣』をステラはギュッと握り締めた。二人の合流を確認するとアレルはすかさず指示を出した。

「各個撃破体勢を執る。まずはザオリクを使うカトゥサに突風陣で行く。隊列順はD。いろははフバーハ、マリスはルカニ。ステラ、カンダタ、ホンフゥは攻撃、オレがとどめにライデイン、もしくはギガデインで行く!」
 指示伝達時間、およそ三秒。アレルの指示に従い瞬時に縦隊が組まれた。D隊列は先頭から、マリス、ステラ、カンダタ、ホンフゥ、アレル、いろはである。
 魔道士系のモンスターを打破するために彼らが独自に開発した隊列である。そして六人が縦に並んで一体のモンスターのみめがけて突進する突風陣。後年、戦術の奇才と言われるロトことアレルが考案した不敗の陣形である。
「行きます! フバーハ!」
 いろはのフバーハと同時に六人はカトゥサに突進した。
「喰らえ! ルカニ!」
 マリスのルカニがカトゥサに直撃した。
「チッ」
 カトゥサの守備力がどんどん低下する。ザルトータンは隊列の横腹にはかいのつるぎの波動を放つが、いろはがフバーハの直後にピオリムも唱えていた。かつ陣形を整えているアレルたちの突進はあまりに素早く、それは空振りに終わった。カトゥサはナイフの切っ先をマリスのノド元めがけて伸ばした!
 マリスはその攻撃を読んでいたかのように横に退いた。その背後にはすぐステラの剣がある。
「覚悟!」

 ズバァァ!!

「ぐぅあ!」
 さらにその後ろからカンダタ、ホンフゥの攻撃がカトゥサを打ちのめす。突進の間、すでにアレルの呪文の詠唱は終わっている。ホンフゥの拳がカトゥサに直撃したそのわずか一秒にもみたない時間の後、勇者の雷がカトゥサに落ちた!

「ウギイヤアアア!!」
 黒こげとなったカトゥサを尻目に、ステラは次の動作に入っていた。イナホの剣がザルトータンの左胸を貫いていた。突風陣の攻撃力のすさまじさにザルトータンが息を呑んだ瞬間、そのわずかのスキをステラは逃さなかった。
「グア!」
「下手な演技だったけど……まんまと私はだまされたわね……でもよく考えりゃアイツが私に『助けてくれ』なんて言うわけない……私はね……ウソツキが大っキライなのよ!!」
 ザルトータンの左胸から剣を抜くと同時に、間髪入れずステラは上段からザルトータンを唐竹割りにした。
「ギャアアア!!」

 カトゥサとザルトータンは討たれた。ステラは血のりを拭きイナホの剣をサヤに収めた。
「やったなステラ」
 ポンとステラの肩を叩くカンダタ。しかし、

 パン!

 振り向きざまにカンダタにステラのビンタが入った。
「イッターッ! なにするんだよ!」
「バカ! 生きているなら早くそう言いなさいよ! あたしが……あたしがどんな気持ちでいたか……」
「ステラ……い、いやすまなかった……」
「お願い……もうどこにも行かないで……」
「ああ……もう離れないよ、離しもしない……」
「約束だよ……」
 ステラを抱き寄せるカンダタ。アレルたちは場の空気を持て余し、頭をポリポリ掻いていた。いろはがパンパンと手を叩いた。
「何はともあれ、城一階の強敵は退けました。休憩をかねて今までの経緯を整理しましょう。まずカンダタ。『銀の竪琴』を使った理由と、どうして助かったのかを私たちに話して下さい」
「ん? 分かった。だが一応聖水、トヘロス、トラマナの結界は張ったほうがいいぞ」

 およそ直径3メートルの円形に結界を張り、六人は車座になった。そしてカンダタがいろはに問われた事を語りだした。
「『銀の竪琴』をガライから拝借したのは、魔の島上陸に際してのモンスターの大群を危惧してのことだ。当初は岬の突端であれを奏でてオレにモンスターをおびき寄せ、オレは海に飛び込むとみせかけて、岸壁の岩肌にでもしがみつくか、『虹の橋』の欄干にロープを投げて、それで助かるつもりだった。しかしあの負傷だ。みんなも多勢に劣勢だった……だからモンスターと心中するつもりで飛び込んだ」
「死ぬ気……だったの? アニキ……」
「ああ、六人死ぬよりはいいだろう……て思ったんだ」
「それは違う! 残された者の痛みを全然アニキ分かっていないじゃない! さっきだってステラがひっぱたいてなかったら私がひっぱたいていたよ……」
「マリスの言う通りよ、カンダタ……死ぬ時は六人一緒だと誓ったじゃない……」
「うん……すまなかった……」
『コホン』とホンフゥがひとつ咳払いをした。
「で、カンダタどうやってあの荒波から助かったんだ?」

「ステラ、このバンダナ、見覚えないか?」
 カンダタは自分の頭に巻いている赤いバンダナを指してステラに訊ねた。
「そのバンダナ……?」
「ホレ、あのマイラの村でオレとステラに絡んできた山賊ウルフ一家の頭目が…」
「ああ! 思い出した。でも彼のバンダナをどうして……」
 この時ステラは思い出した。意識の中のイナホが言った『若者を包む六つの光』。六つと言う数から自分たちのことだと思っていたステラだが、よく思い出せば、あの時カンダタと自分に絡んできた山賊も六名だった。
「まさか……彼らに?」
「そうだ……オレは彼らに助けられた……」
 カンダタは目をつむり、とうとうと語りだした。

「う……うう……」
「……ダンナ、しっかりしなせえ……」
「……ハッ!」
 カンダタが意識を戻した場所。そこはリムルダールの北西端で虹の橋のたもとであった。
「こ、ここは……」
「気がつきましたかい……」
 カンダタの目の前、そこには息も絶え絶えの男が座っていた。マイラの酒場で少女にからんでいるところをカンダタにグラスを投げられた男であった。
「お前……確か山賊ウルフ一家の……」
「覚えていてくれやしたかい……ありがてえ……」
 男はそういいながら倒れた。
「おい! どうした! まさかおまえがオレを助けてくれたのか!?」
 カンダタは男を腕に抱いた。
「ほめてやってくれませんか……あっしの仲間たちを……」
「仲間たち……? おい……他の五人はどうした?」
 男は首を振った。
「ま、まさか……五人ともオレを助けるために……? な、なぜだ? どうしてオレを助けてくれたんだ!?」
「あっしら……ダンナにホレちまったんですよ……ぜひ子分にしてもらいてえと思い、リムルダールまで追いかけてきやした……そしてようやく見つけたダンナはこの場に立ち、お仲間と虹の橋を魔の島に架けていた。その時分かった。ダンナはゾーマを倒そうとしていると……」
 首を縦に降ろすカンダタ。男は続けた。
「これは加勢をと思いつつも、魔の島にいるモンスターはあっしらごときじゃ歯が立たねえ。情けなくも虹の橋の上で震えていたんですが、あっしらは見ちまった。ダンナがモンスターと心中するかのように、あの荒波に飛び込むのを……」
「それを……お前たちが助けてくれたのか……?」
 カンダタの瞳から涙がポロポロと落ち、男の顔を落ちていく。そしてカンダタは気づいた。自分の足の負傷がすっかり癒えているのを。
「あっしは……僧侶くずれでしてね……ホイミくらいなら何とか……」
 命を削る思いで自分を助け五人の仲間の命を失ってしまった男は、おそらく最後のチカラを振り絞ってカンダタにホイミをかけ続けたのだろう。もはや指を動かすこともできない。
「オレは……どうお前に……」
(報いてやったらいい?)が涙声でカンダタは口から出せなかった。
「こ……あっしらを……こ……ぶんに……」
「ああ! ああ! 喜んで子分にしてやるとも! お前もそしてあの五人も!」
「へ……へへ……さすがあっしらがホレた……親分……」
「お、お前の名前は!?」
「バ……バコタ……」
「バコタ死ぬな! オレは親分らしいこと何もしていないぞ! この恩を返させてくれ。死ぬな! 死ぬ……」
 バコタはすでに眠りについていた。満ち足りた顔をして彼は今、カンダタの子分になれたという事を喜び、死んでいった。バコタを抱きしめながらカンダタは泣いた。
「バコタ……生涯お前の名前は忘れない……友よ!」
 その時、空から何かが飛んできて、カンダタの近くの地に刺さった。
「魔神の斧……」
 魔神の斧に彫られた竜の彫刻。その竜の目がうすく光った。
「弔ってやろう……と云うのか。お前にも分かるのだな……」
 カンダタは穴を掘り、バコタを埋めた。その際、バコタが頭に巻いていた赤いバンダナを取った。
「オレの戦いを見ていてくれ……お前たちの故郷であるアレフガルドに必ず太陽を昇らせてやる。お前たちの親分として相応しい男として、ゾーマに臆することなく立ち向かっていく。お前たちがヴァルハラでオレはあの男の子分だと胸張れるようにな!」
 バコタのバンダナを大事に懐にしまい、魔神の斧の柄をチカラ強く握った。そしてカンダタはゾーマの城へと駆けていった。

 後日談になるが、このバコタと仲間たちの最期はロト伝説にも記され『侠客の鏡』と後世から讃えられる。
 そしてラルス二世の手により、このリムルダール北西端には彼らの廟も建立され、ラルス二世の筆により廟には『壮士墓』と記される事となる。
 アレフガルドの人々はロト伝説に記された六人の壮士を敬愛し、誇りと思い続けるのである。春夏秋冬、彼らの廟に花が絶えることはないと云う。

 カンダタの話が一通り終えると、ステラの目に涙が浮かんでいた。
「そう……あの時の山賊が……カンダタを助けてくれたんだ……私もバコタという名を一生忘れないわ……」
「ああ……だからオレはヤツらの魂に応えるためにも絶対にゾーマを倒し、アレフガルドに光を取り戻したい」
「そうだな。仲間の恩はオレたちにとっても恩だ。オレたちは全力で彼らに応える義務がある」
 同じく涙ぐんでいたホンフゥ、いろは、マリスもアレルと同じ気持ちだった。

「ところでステラ……ごめんね……でも前もってあれがアレルとの狂言と知っていれば私だってあんなにステラを悪し様に罵る事は無かったんだよう……」
 気まずそうにマリスは言った。
「ううん……謝るのは私……あんな魔の甘言に乗ってしまうなんて……アレルがオルテガ流の符号を言ってくれたから何とかなったけど、あれを言ってくれなかったらと思うと……」
 確かにあの時、アレルがオルテガ流の符号を言ったため、ステラが完全に魔の言葉に踊らされる事はなかった。しかし実際にカンダタの蘇生を条件に仲間を裏切ろうとしたのは事実である。戦いが終わり、頭が冷静になってくるとステラはその負い目でつぶされそうになった。
 バコタの最期を聞いて泣いていたステラの目から、それとは違う涙が流れ出した。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
 仲間たちはカンダタを失ったばかりのステラが冷静な判断ができるはずもなかったであろうことは分かっている。しかし何事もなかったように気軽に許す言葉を言っても、それが返ってステラを苦しめるかもしれないと思い、言葉が詰まった。
「ステラ……お前がどんな過失をしたのかは……オレは知らないほうがいいだろうから何も聞かない。だが一つの過失は一つの成果で示せばいい。オレたちはそうやって一人一人自分の仕事をやってきた……そうだろう?」
「カンダタ……」
「カンダタの言う通りです。今まで幾多の修羅場を潜り抜けてきた私たちじゃないですか。信じあい、許しあい……そしてオロチ、ボストロール、バラモスと倒してきたのです。そしてゾーマとも……」
 涙を拭くよう、いろははステラにハンカチを渡した。
「いろは……ありがとう」

 パンとアレルが手を叩いた。
「よし、話も整理がついたことだし、体力も回復したし、先に進もうか!」
「そうだな」
 ヨイショとカンダタは立ち上がった。まだベソをかいているステラの手を取りながら。
「ところでアレル……」
「なんだよマリス?」
「行き止まりなんだけど…」
「なぬ?」
 マリスはトラマナを使い、一階フロアの最奥にある玉座の周りをウロウロしていた。玉座の周りはバリアが巡らされ、トラマナ無しでは大ダメージを負うこととなる。
「マリス、オレたちにもトラマナを」
 アレルといろはもマリスのトラマナを受け、バリアに入っていった。
「本当だ、袋小路だぞ……」
 ステラやホンフゥは玉座の周りのカベを調べているがやはり隠し扉はなかった。
「ないわ。今まで通ってきた道に隠し扉があったのかな」
「いや……」
「どうしたカンダタ? 何かあったか?」
 と、ホンフゥ。
「風が流れている……」
「風?」
 バリアの床面をカンダタは注意深く見つめた。
「ここか!」
 魔神の斧を床に叩きつけた。

 バァァァンッ!!

「やっぱりな……」
 そこには隠し階段が姿を出していた。
「やったあ! さっすがアニキだよ!」
「玉座の真後ろとは盲点だったな。よし突入するぞ。先頭はオレ、次はホンフゥ、いろは、中堅にステラ、そしてマリス、しんがりはカンダタだ!」
「OK!」「よし!」
 アレルを先頭にパーティーはゾーマの城の地下へと突入を始めた。最後の戦いは舞台を城の地下へと移し、繰り広げられる。

 所は変わって、ここはアレルブルク。
 マサールは相棒イナホの墓の前にいた。毎日欠かさない墓参。マサールは祈りを捧げていると、何か墓から波動を感じた。
「ん……」
 そしてそれは幻聴なのか、確かに聞こえた声だった。
(ただいま……マサール……)
「……イナホ?」
 聞こえたのはその一言だけだった。
「……イナホ……」
 マサールは空を見つめて、微笑んだ。
「そうか……そうなのか……」
 昨日、マサールは妻のフレイアが妊娠した事を教えられた。齢七十にして授かった子宝であり、彼の喜びようは大変なものであった。そして今、聞こえた相棒の言葉は『ただいま』だった。
「おかえり……イナホ……」


第四章「再会、そして別れ」に続く。