東芝の綱川社長は夕方、都内の本社で会見。集まった記者ら約200人を前に、経営悪化の原因となった原子力事業について管理体制を強化するため、社長直属の組織にすることを明らかにしました。原子力事業の抜本的な位置づけの見直しに踏み切ったわけですが、そもそもアメリカの原子力事業で一体何が起きていたのでしょうか。(経済部 江崎大輔記者)
「不安を与え申し訳ない」
「責任を大きく感じています。また東芝の技術や人を信頼してくれたお客さまに不安を与えたことを申し訳なく思っています」
東芝の綱川智社長は記者会見でこのように述べ、経営の立て直しを急ぐ姿勢を強調しました。
その発端となったのは、年の瀬も迫った去年12月27日に東芝が発表したアメリカの原子力事業の巨額損失です。原子力事業を手がける子会社ウェスチングハウスが2015年に買収したCB&Iストーン・アンド・ウェブスターについて、資産内容を詳しく調べた結果、数千億円規模の損失を計上する可能性があると明らかにしたのです。
東芝は具体的な損失額を2月14日の決算発表と同時に明らかにするとして、それに向けた作業を急いでいます。
なぜコストが膨らんだのか
ウェスチングハウスは、アメリカ南部のジョージア州で2基、サウスカロライナ州で2基の合わせて4基の原発の建設を2008年に受注しました。
子会社のウェスチングハウスがCB&Iストーン・アンド・ウェブスターを買収する前のことですが、両社はこの4基の建設プロジェクトを共同で受注するパートナー企業の関係にありました。
東芝によりますと、2011年3月の東京電力・福島第一原子力発電所の事故のあと、アメリカで原発の安全基準が厳しくなったことを背景に建設のコストが膨らみました。特に、安全基準を満たすために設備や資材の費用が上昇。それにともなって建設の工期が伸びることで人件費も膨らみ、全体の建設コストが受注した時点の想定を大きく上回ったとしています。
工期は当初の計画ではそれぞれ5年程度の見通しでしたが、現在では、原発の運転開始の時期は、4基いずれも1年から3年程度遅れているということです(今の運転開始時期は2019年~2020年の予定)。原発の建設費用は、4基合わせておよそ2兆円で、工事の進ちょくはまだおよそ30%です。
対立していた会社を買収
東芝によりますと、ウェスチングハウスとCB&Iストーン・アンド・ウェブスターは、建設コストが膨らみ続ける中でコストの負担をめぐって対立していったといいます。
このためさらに工期が遅れる可能性が出てきたことから、ウェスチングハウスは、この対立を収拾させるためにCB&Iストーン・アンド・ウェブスターの買収に踏み切ったとしています。
つまり、東芝の”孫会社”にしたのです。ただ、この時すでにCB&Iストーン・アンド・ウェブスターは、資産が負債を下回る債務超過に陥っていたということで、ウェスチングハウスは、買収にあたって親会社のCB&Iとの間で買収額は「0ドル」とする契約を結びました。
根本的な解決にはならず
買収によって対立していた相手を取り込むという対処法。しかし、膨らむコストを抑えるための根本的な解決にはなりませんでした。
ウェスチングハウスとCB&Iストーン・アンド・ウェブスターは、建設の発注元のアメリカの電力会社との間で次のような契約を結んでいました。
「4基のうち少なくとも2基(サウスカロライナ州)については、建設の費用があらかじめ決めた金額を超えた場合は、ウェスチングハウスとCB&Iストーン・アンド・ウェブスターがその分を負担する」
電力会社にとって有利な契約です。このため、建設のコストが膨らめば膨らむほど採算が悪化する形となり、その結果、数千億円規模の損失につながったのです。
かつての親会社とも対立
さらに、買収からおよそ半年、今度はウェスチングハウスとかつての親会社のCB&Iとの間で対立が鮮明になります。
買収にあたって両社はCB&Iストーン・アンド・ウェブスターが建設のために確保している運転資金が11億7400万ドルを下回った場合は、その分はCB&Iが負担するという契約になっていました。この運転資金がいくら残されているかをめぐって両社は対立したのです。
ウェスチングハウスは運転資金がマイナスになるほど採算が悪化していると主張する一方、CB&Iは運転資金は十分に確保できているはずだと正反対の主張をし、訴訟にまで発展しました。
膨らみ続ける建設コストを誰が負担するのかをめぐる対立という構図では、買収前と変わりません。結局は、建設コストの拡大のリスクをどこまで予測していたのか、その発端となった契約方法の選択が正しかったのか、その検証が必要です。
迫られる原発事業の見直し
今回明らかになった巨額損失を受けて、東芝は財務基盤の立て直しを懸命に進めています。もちろんまずは目先の経営課題を乗り越えることが先決です。そして、そのあとに待ち構えているのは、東芝にとって収益の重要な柱と位置づける原子力事業の立て直しです。
いま、世界の原発ビジネスはリスクという壁に直面しています。フランスのアレバは、原発の建設コストの上昇を背景に経営が悪化し、フランス政府が救済に乗り出す事態となりました。ドイツのシーメンスも原発事業からの撤退を決めたほか、アメリカのGE=ゼネラル・エレクトリックは原発事業への積極的な投資には慎重な姿勢を明らかにしています。
安全規制の強化による建設コストの拡大という世界的な流れのなかで、東芝は原子力事業をどのように立て直していくのか、取材を通じても今のところその具体像は見えません。
東芝が中核事業と位置づける原子力事業は、収益性の高い事業というかつての魅力だけではなく、ひとたび戦略を誤ると大きな損失につながるリスクを伴う事業という側面が際だつようになりました。2月14日に発表する予定の事業計画で、東芝は巨額損失が明らかになった主力の原子力事業について立て直しに向けた道筋を示せるかどうかが問われています。
- 経済部
- 江崎大輔 記者
- 平成15年入局
宮崎局、経済部、
報道局遊軍プロジェクトをへて
現在、電機業界を担当