トランプ米大統領のおごり高ぶる姿勢に驚きあきれ、怒りを覚える。

 メキシコとの国境での壁の建設を巡って同国のペニャニエト大統領と対立し、首脳会談が中止された。トランプ氏が一方的に建設を決め、その費用負担を迫っただけに、ペニャニエト氏が猛反発したのも当然だろう。

 「メキシコが壁の建設費用を払わなければ会談をキャンセルした方がよい」「米国にまっとうな敬意を払わない限り、このような会談は無駄だ」

 トランプ氏はツイッターや演説でこう語った。やり方も外交儀礼に反する。メキシコが抵抗すると見るや、メキシコからの輸入に20%の課税を検討すると表明した。「米国第一」を超えて「米国だけ」の様相である。

 外交はお互いの信頼関係なしには成り立たない。いくら米国が超大国とはいえ、力ずくで従わせようとしても相手国の議会や国民の反発を招き、こじれるだけだ。トランプ氏はそんなこともわからないのだろうか。

 米国には不法移民が1100万人ほどいるとされ、さまざまな問題があるのは確かだ。約3200キロに及ぶメキシコとの国境のおよそ3分の1には、既に柵や壁がある。とはいえ、いきなり残りすべてに壁を築くと宣言し、費用負担を突きつけるのは常軌を逸している。

 トランプ氏は、不法移民が犯罪を増やし、雇用を奪う元凶と断言する。だが、不法滞在者を含めて移民は米国の貴重な働き手かつ消費者であり、成長の一翼を担っている。壁の建設を柱とするあまりに激しい不法移民対策に対し、ニューヨーク市長ら移民が多く住む大都市のトップが相次いで異を唱えたことに、その現実が表れている。

 米国の強圧的な姿勢にさらされる恐れは、メキシコだけではない。トランプ氏は演説で、貿易交渉は二国間で行うと改めて強調した。相手国に不満があれば期限を区切った通知書を送りつけるとし、「その国は『交渉を打ち切らないでほしい』と懇願してくるだろう」と語った。

 国際社会が結束し、米国に理不尽さを説かねばならない。

 来月には主要20カ国・地域(G20)の外相会議が予定されている。対メキシコの課税構想は、世界貿易機関(WTO)のルールに触れる恐れがある。トランプ氏が為替問題に不当な口出しをすれば、関連する国際協議の場で取り上げるべきだ。

 冷静さを失わず、しかし毅然(きぜん)と対応する。日本にも米国からの要求が予想されるが、他国と連携する姿勢が欠かせない。