事故で寝たきりとなった少年に語りかける母親。少年は事故でコミュニケーション能力を失い、呼びかけに答えることもできなくなった=福岡県で
福岡県久留米市立久留米特別支援学校で2012年、給食中に窒息し、重い脳障害などを負った生まれつき脳性まひの少年(18)が、事故前からの障害を理由に災害共済給付の障害見舞金が支給されなかったのは「障害者差別に当たる」として、母親が独立行政法人日本スポーツ振興センターに支給を求めた訴訟が福岡地裁久留米支部で争われている。元々最重度の障害がある場合、更なる障害には支給しないとする制度の不備が露呈した。
災害共済給付は、学校管理下で事故などに遭った児童生徒らに障害見舞金や医療費、死亡見舞金をセンターが支給する制度。このうち障害見舞金は、障害が残った場合に文部科学省令が定める14段階の障害等級に応じて82万~3770万円を支給する。
ただ省令には、既に障害のある児童生徒の同一部位の障害については、等級が重くなった分だけ支給するとの規定がある。例えば以前から2級だった人が事故で最重度の1級になった場合、1級の3770万円から2級の3360万円を引いた410万円を支給する。
少年は、同支援学校の中学部3年だった12年9月26日、教師の介助で給食中に気道に詰まらせて窒息し、心肺停止状態で救急搬送された。命は取りとめたものの、低酸素脳症で重度の後遺症が残り、市教育委員会がセンターに障害見舞金の支給を求めた。だがセンターは、少年が事故前から既に1級の障害があり、事故で等級が重くなったわけではないとして支給しなかった。
脳性まひで生まれた少年は知的障害があり、言葉は話せなかったが、事故以前は学校に車椅子で通学していた。声や表情で感情や意思表現したり、介助を受けて口から食事したりし、完全に自発呼吸もできた。
しかし、事故後、障害ははるかに深刻になった。元々視力は良かったが両目とも失明し、聴力も低下。笑顔などの感情表現は消えた。胃ろうでの栄養摂取や酸素吸入のための気管切開手術なども必要になり、自宅で寝たきり生活になった。寝返りできず、母親が夜も2時間おきに起き、たんを吸引して体を冷やし、床ずれ防止のため体位を変える毎日だ。
提訴は14年12月。「本当に感受性の豊かな子だった」と語る母親は「他の子供たちと同じように補償が受けられないのは、障害を理由にした差別。息子の命が残った意味を考えながら闘い、制度を変えさせたい」と訴える。センター側は訴訟で「規定は社会通念からみて合理的」などと主張している。【樋口岳大】