「ピンハネ監理団体」の成り立ち
番組が取り上げたのは、公益財団法人「国際人材育成機構」(通称:アイム・ジャパン)という監理団体だった。この団体を私は10年前に取材したことがある(2007年10月号「官僚組織がたかる『研修生利権』の甘い汁」)。当時から監理団体として最大規模を誇っていて、これまで斡旋してきた実習生はインドネシア、タイ、ベトナムの3カ国から約4万5000人に上る。今年度に限っても2500人以上の斡旋を見込んでいるほどだ。
実習生の斡旋には民間の人材派遣会社は関与できない。公益性を認められた組織のみが監理団体として活動できるが、実習生の受け入れを主たる事業にすることは許されない。実習制度が営利目的で利用されないよう配慮してのことである。ただし、アイム・ジャパンだけは実習生の斡旋に特化した団体だ。
そんな特権が認められているのは、この団体の成り立ちに理由がある。アイム・ジャパン(創設時の名称は財団法人「中小企業国際人材育成事業団」)は1991年、旧労働省(現・厚生労働省)出身の故・古関忠男氏が創設した。彼は実習制度の生みの親である。アイム・ジャパンを創設した頃には、「参議院のドン」として政界に君臨していた村上正邦・自民党参院議員(当時)らに働きかけ、実習制度の創設に動いていた。そして93年、実習制度が実現すると、アイム・ジャパンに「特権」が与えられる。
その後、古関氏は2000年に発覚する「KSD事件」で逮捕され、村上氏ともども失脚した。こうして現在の実習制度をつくった2人が表舞台から去った後も、アイム・ジャパンは存続し、右肩上がりで成長を続けていく。
膨れ上がる事業規模
今年度の事業収入は23億円以上が見込まれ、銀行預金だけで約8億円に及ぶ内部留保もある。10年前には135名だった従業員は220名まで増え、北海道から沖縄まで全国に12カ所、加えて送り出し側の3カ国にも事務所を構えるほどだ。福島での原発事故直後には、ベトナムから数千人規模の実習生を受け入れて原発で働かせようと計画したこともある。
アイム・ジャパンの事業を支えているのが、実習生の受け入れ先から得る様々な手数料だ。受け入れ先は実習生を斡旋してもらう場合、アイム・ジャパンへの入会金として10万円、加えて1万円の月会費が必要となる。さらに、就労前に受ける研修費として実習生1人につき14万8300円も支払わなければならない。そして実習生が仕事を始めた後は、アイム・ジャパンに対して1年目は1人当たり月6万4100円、2年目は月5万8200円、3年目は月5万5300円を支払う義務が生じる。そこから1年目は月1万円、2年目以降は月2万円を「事業奨励基金」としてアイム・ジャパンが預かり、実習生が母国に帰国する際に手渡す仕組みだが、目的は実質、彼らが途中で失踪しないようにすることだ。日本人の労働者に対しては到底許されないシステムである。
アイム・ジャパンのような監理団体が実習生の受け入れ先から徴収する費用を「ピンハネ」と呼ぶことに対し、彼らにも言い分はあるだろう。費用には実習生の渡航費なども含まれてはいる。とはいえ、実習制度の趣旨が全く形骸化し、実習生の斡旋がビジネスと化していることは紛れもない事実だ。
こうした監理団体の存在があるため、実習生の手取りは低くなる。たとえば、受け入れ先が月20万円を用意しても、アイム・ジャパンへの支払いや実習生のアパート代などを差し引けば、実習生には半分ほどしか渡らない。
役所と大メディアによる「八百長」
古関氏が失脚した後、アイム・ジャパンを乗っ取ったのが法務省と厚労省だ。理事長の坂本貞則氏は法務省、専務理事の坪田一雄氏は厚労省からの天下りなのである。つまり、実習制度の拡充法案をつくった両省とは、表裏一体にある団体でもあるわけだ。もちろん、そんなカラクリは「クローズアップ現代+」では全く伝えられなかった。基礎知識もなく番組を見た視聴者が、法務・厚労両省とNHKの「八百長」に騙されたとしても当然だ。
官僚がつくった法案の正当性を、自らの天下り先である団体を使って宣伝し、それを大メディアが垂れ流す。その結果、世論が誘導され、まるで国益に沿う政策であるかのような錯覚が広まっていく。そして裏では、天下り先のビジネスが繁盛する――。
実習生の失踪を減らしたいなら、監理団体のピンハネにメスを入れることが先決だ。実習生がブラック企業の犠牲になっているというのなら、彼らに職場の移動を認めればすむ。天下り先の監視機関などつくらなくても、制度のスキームを変えればよいのである。
外国人労働者が必要なのであれば、「実習」などと偽らず短期就労を認めるべきだ。たとえ就労期限が3年から5年に延びようと、労働者が入れ替わり、再来日が許されないローテーション型の実習制度は、受け入れ先にとって決して好ましいものではない。日本語能力を条件に課すなどして再来日を認めれば、失踪する外国人も減るだろう。彼らは期限内に日本で少しでも多く稼ごうとして失踪するのである。そんな簡単なことすらできないのは、現行制度のもとで官僚機構が巧妙に実習生を食い物にし、自らの利権を広げているからなのだ。
そうした官僚の思惑にNHKを始めとするメディアが加担する。しかも「潜入ルポ」などと称して放送するなど、まさに国民への裏切り行為に他ならない。
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