東京都足立区に暮らす夫婦は、3歳の次男をウサギ用ケージに監禁し、殺害。夫婦は長男や長女とともに森へ行ってその子の遺体を埋めた。その翌日、夫婦は家族で東京ディズニーランドへ遊びに行き、約1週間後には6番目の子供を出産した――。
このように事件のあらましを書けば、どうしてこんな鬼畜のような夫婦が存在するのかと思うはずだ。普通であれば、どちらか一方が子供の虐待を止めるのではないか。あるいは、祖父母や叔父叔母が介入するのではないか、と。
だが、そうしたセーフティーネットが機能しないからこそ、凄惨な事件が後を絶たないのだ。
日本小児科学会の「子どもの死亡記録・検証委員会」の発表では、虐待で殺されている子供の数は、推計で約1日1人にのぼるという。ニュース報道においても、毎月のように凄惨な虐待事件が報じられている。
どうしてこのような「鬼畜夫婦」は生まれるのか。
私は『「鬼畜」の家~わが子を殺す親たち』(新潮社)で、親子3代にまでさかのぼって虐待親が誕生する背景を明らかにした。ここでは、その本の中から足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件を例に、「虐待夫婦」ができ上がるまでの実情を明らかにしたい。
事件が起きた背景を浮き彫りにするには、夫婦がどういう生い立ちの中で、なぜ結婚をしたのか探らなければならない。
足立区の事件の夫・皆川忍(逮捕時30歳)の母親A子は、児童養護施設で「モンスター」と呼ばれていた。
A子は中学卒業後に水商売の世界に足を踏み入れ、夫との間に合計5人の子供をつくった。その長男が忍だったのである。
だが、A子は産むだけ産んで子育てをまったくしようとしなかった。赤ん坊を家に残してさっさと水商売の世界へもどったのである。忍は間もなく乳児院に入れられ、妹たちに至っては生まれる前から乳児院に予約され、病院から乳児院へ送られて家庭で育てられることはなかった。中には出生届さえ出してもらえなかった子もいる。
それでもA子は忍を「愛していた」と言い張る。その愛はゆがんだものだった。A子は子供たちのお小遣いを奪い取ったり、夜の街を一緒に連れ歩いたりし、子供に飽きてくると児童養護施設に追い返した。中学を卒業した忍を引き取ったはいいものの、ソープランドの仕事に明け暮れろくに帰ってこず、家事などほとんどしなかった。
忍はA子に振り回されつづける中で、まともに人と付き合えないような人間に育っていく。母親に何度も捨てられてきたので、他人を大切に思うことができない。母親に裏切られつづけてたので、人を信頼する気持ちを持てない。母親同様に、行動はすべてその場の思いつき……。
たとえば、忍は20歳になっても同年代の人と付き合うことができず、かつて在籍していた児童養護施設の小学生とばかり遊んでいた。そして正月には「サスケごっこ」と称して小学生をつれて民家の屋根によじ登って大騒ぎをする。まるで幼児の精神年齢のまま20歳になったようなものだ。そんな彼はアルバイトも長く続かずに転職を繰り返し、何も考えず女性経験のないまま足立区竹の塚にあるホストクラブでホストになる。
一方、妻の朋美(逮捕時27歳)の生い立ちも悲惨だ。母のB美は中学卒業後にホステスとなり、入れあげたホストとの間に未婚のまま子供を産む。その長女が朋美だった。
その後に長男ができたことから籍を入れるが、結局一度も同居しないまま離婚。ほぼ同時に付き合っていた別の男性と再婚し、今度は3人の子供を産む。つまり朋美と長男はホストとの間にできた子供で、下の3人は再婚相手の子ということだ。
B美は絵に書いたようなモンスターマザーで、近隣住民といさかいを起こしては逃げるように引越しをした。その数は、朋美が中学を卒業するまでに実に5回。朋美は物心ついた時からずっと母親に振り回されつづけた。
また、B美は再婚後もホストクラブに通うなど性に奔放だった。中学進学以降、朋美はその影響を受けたかのように性に関するトラブルを起こす。中学では恋愛によるいざこざから不登校になり、卒業後に進学したチャレンジスクールでは体を許した先輩に「妊娠した」と嘘をついて中絶費用をだまし取ろうとして退学になる。その後は水商売の世界に入り、客との間にできた子供を未婚のまま出産。養育費として250万円を手に入れた。
第1子を産んだ後、朋美は母のB美に連れられて竹の塚のホストクラブに遊びに行く。そこで働いていたのが忍だった。2人は出会って5日後に肉体関係を結び、1ヵ月も経たないうちに赤ん坊とともに同棲をはじめた。そして、7年間で7人もの子供を出産するのである。
7人も子供がいれば、養育費はかなりの額にのぼる。だが、2人には計画性というものがまるでなかった。忍は契約の仕事を転々とするが、当然生活が成り立つわけもなく、粉ミルクを万引きして転売したり、親族から借金を重ねたりした末、生活保護に頼ることになる。子供が多い分、すべての手当を含めて月に30万以上受け取っていたと思われる。
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