大好きな娘、戻らない
19人の命が奪われた事件からちょうど半年。相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた殺傷事件で娘を失った神奈川県内の母親が26日、重い口を開いた。娘との楽しかった思い出が頭をよぎる度、その娘が二度と戻らない現実を突きつけられ、悲しみがこみ上げる。「思い出すと、つらくなる」。理不尽な凶刃に娘を奪われた今の悲痛な気持ちを、母はゆっくりとした口調で語った。【木下翔太郎】
月命日の26日朝、母は仏壇に向かい、優しい笑顔でこちらを見つめる娘の遺影に手を合わせた。仏壇には、娘が好きだったお菓子や、キラキラ光る指輪を供え、毎日欠かさず手を合わせる。「おはよう」。朝のあいさつの後に、こんなことをするよ、と娘に話すことから一日が始まる。
昨年7月26日朝、テレビ画面に見覚えのあるやまゆり園の壁が映った。事件だった。「もしかして」。園への電話で「けがをしている」と知らされた。園に急ぐ途中、職員から「お気の毒です」と告げられた。信じられなかった。
首に傷を負った娘と対面できたのは、その日の夜。「ママが来たよ……」。静かな部屋で、娘を、おえつしながら抱きしめた。
告別式。娘が大好きだったメロンソーダが供えられた。娘が好きだった歌が流され、友達が別れの言葉を贈ってくれた。
自閉症で、話すことはできない。けれども、うれしい時はいっぱいの笑顔で家の中を走り回った。頼みごとがある時は、体の前で手を合わせてお願いした。手先が器用で、絵が得意だった。嫌いな食べ物は箸で上手によけた。「そんなところが憎らしい時もあるけれど、いとおしくて」。大好きな娘だった。
アイスが好きで「寒い時でも、うれしそうにかじりついていた」。外出先で店先にソフトクリームの模型を見つけると、喜んで飛びついた。娘と一緒に出かけた思い出。水族館で魚を眺めたこと、レストランで外食したこと。ふとした瞬間に、娘との楽しい思い出がよみがえる。
だが、それはすぐに癒やしようのない悲しみに変わる。「今思うと楽しい思い出ばかりで。いろいろな所に一緒に行ったなと思うと寂しくなる。思い出すとつらくなって、苦しくなる」。家事も手に着かなかったある日、夢に娘が出てきてくれて、何とか自らを保つことができた。
娘を突然失った悲しみは時が過ぎても変わらない。娘が母のために一生懸命書いた「まま」の字を写した写真を手帳に挟み、肌身離さず持ち歩いている。