NHKの新しい会長に上田良一氏が就任した。

 前任の籾井(もみい)勝人氏は「政府が右ということを左というわけにはいかない」の発言に象徴される政権寄りの姿勢が人々の不信を招き、公共放送のかじ取り役として疑問がついて回った。トップダウンの人事は局内の士気の低下をもたらしたとの指摘があり、職員らによる金銭の着服・流用や番組の過剰演出など、組織の緩みも目についた。

 就任会見で上田氏は「コンセンサスの経営をめざす」と述べた。その言葉通り、混乱を早期に収拾し、NHKを国民・視聴者に信頼される存在にすることに、まず徹してほしい。

 とりわけ政治権力との距離のとり方は、報道機関としてのNHKの死活を握る。「公平公正、不偏不党の立場を貫く」と述べた初心を、日々実践することが求められる。

 年間6800億円もの受信料収入があり、1万人の職員を抱える巨大な公共放送だ。報道や番組のあり方、組織の運営は常に国民の視線にさらされ、議論の対象になる。その議論を深めるために必要な情報を発信し、説明を尽くすのも、新会長に課せられた重要な任務だ。

 上田氏が経営課題の第一にあげ、総務省とともに進めようとしている「放送と通信の融合」をめぐっても、同じく公共の精神に立つことが求められる。

 NHKは、東京五輪・パラリンピックを視野に、前年の2019年からテレビ番組をインターネットで同時に配信できるようにしたい意向を示している。スマートフォンやパソコンで動画を見る若者層のテレビ離れに対応するのもねらいだ。

 だが、NHKの都合や思惑で進められる話ではない。

 受信契約を結んでいないネット視聴者に新たに料金負担を求めるのか。その際、どんな徴収手法をとり、金額をいくらに設定するのか。課題は多く、放送法の改正も必要になる。

 民放への配慮も忘れてはならない。同時配信を行うには、巨額の設備投資、番組で使われる音楽や出演者の権利処理など、高いハードルがある。

 また、キー局の番組をネット経由で見られるようになると、地方局の経営が打撃を受け、地方発の情報発信が細る懸念も指摘されている。国民の知る権利にもかかわる難しい問題だ。

 上田氏は「民放との二元体制を尊重する」と話している。国民の利益を念頭に、放送界全体を見渡した取り組みをする。それは、国民の受信料に支えられるNHKの使命である。