オバマ氏といえばコミュニケーション巧者。演説における洗練された言葉選びはもちろんのこと、2008年の初当選時にはまだ黎明期だったSNSを駆使した選挙戦略で注目を浴びた。支持者とのコミュニケーションにおいて、オバマ氏は従来の政治家と何が違っていたのか。米民主党の選挙運動チームの一員として、2008年から8年にわたって汗を流した明治大学の海野素央教授に聞いた。
(聞き手は藤村広平、一部敬称略)
(前編はこちら)
研究対象とはいえ、やはりオバマ氏に思い入れがあるということですね。一緒に写真を撮ったことがあるとも聞きました。
海野:あります。2012年5月、バージニア州リッチモンドで開かれた支持者集会の時です。選挙キャンペーンで活躍している人だけ記念写真を撮れる特権を与えられ、その枠に選んでもらったのです。オバマ専任のプロカメラマンが撮ってくれました。
これは、相当な笑顔になってますね……。
海野:だってバラクだけかと思ったら、後ろからミシェルも入ってきてくれたんですよ。あのときは驚きました。
「007」のような写真撮影
オバマ氏に会えるということは、事前に分かっていたのですか。
海野:知りませんでした。セキュリティの問題があるから、最初は知らせてくれないんです。オバマがバージニア州リッチモンドの支持者集会で演説することは知っていて、入場チケットを欲しいと選挙事務所に話したんです。すると「モトオはチケット要らないよ」と。
このとき「あれっ」と思ったのですが、すぐに集会の責任者からメールが届いて、集会前日の深夜までにパスポートの番号、フルネーム、それからワシントンでの住所、日本での職業は何かを書け、と命じられた。理由は言えないと書いてありました。
集会に入りたいので、送りましたよ。そしたら今度は「選挙スタッフから連絡がいくのでメールボックスを注意して見ていてくれ」と。もう「007」の世界ですよね。わかりましたと送ったら、今度はバージニア州リッチモンドのピンポイント、この場所に何時何分にいてくれって指示されたんです。
なんとなく勘付きそうなものですが。
海野:全然気づきませんでした。当日会場に着くと「運転免許証を見せろ」と命じられました。最初は「おまえがモトオか」と聞かれ、「そうだ」と答えたら「モトオって最後に『O』が2つのMOTOOで間違いないか、ウンノって『N』が2つでUNNOで間違いないか」と。
本人確認ができたところで、入場するために並んでいた1000人ほどの列の先頭に連れて行かれました。同じく15人くらい特別枠に選ばれた支持者が立っていました。そのなかの黒人のおばちゃんが「いまから私たちオバマに会えるのよ!」と叫んでいて、そこでやっと気づきました。
私が名前を呼ばれたのは6番目だったでしょうか。カメラもペンも財布も持っていてはダメなんです。特にペンというのは武器になりますから厳しかった。ベルトは許されていたかな。一般入場者は金属探知機を1回通ればいいのに、私達だけは2回チェックされました。