先日、任天堂が新型の家庭用ゲーム機「Nintendo Switch」の詳細を発表した。価格や発売タイトル、スマホ連携などの付加機能の有無に注目が集まったが、「サプライズに欠け、物足りない」「マリオなど任天堂のタイトルが本体と同時発売でないのは残念」「任天堂は家庭用ゲームをあきらめたのか?」といったネガティブな意見が大勢を占めた。だが筆者は、任天堂が過去の失敗をもとにしっかりと戦略を立てており、「Nintendo Switchは間違いなく成功する」と感じた。
ビッグタイトルの発売を分散して本体が買えない事態を防ぐ
発表会で多く聞かれたネガティブな意見が、本体と同時発売となるゲームソフト(ローンチタイトル)の少なさだ。
任天堂のローンチタイトルは『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』と『1-2-Switch』の2つしかない。オリジナルタイトルとして注目が集まる『ARMS』は春発売予定で、人気シリーズの強化版『マリオカート8デラックス』は4月28日発売だ。Wii Uで大ヒットした『スプラトゥーン』の続編『スプラトゥーン2』は今夏発売で、大本命となる『スーパーマリオ オデッセイ』はなんと冬のリリース予定となっている。つまり、任天堂のビッグタイトルで本体同時発売となるのはゼルダだけなのだ。
マリオなど人気シリーズの新作を楽しみにしていた人にとっては不満の残る内容といえるが、任天堂は2つの狙いであえてローンチタイトルを抑えたと考えられる。
まず1つが、Nintendo Switchの発売直後に品薄で買えなくなる状況を避けたかったのだろう。1月21日の予約状況を見ると、かなりの数が発売日に用意されるとみられるが、ローンチタイトルに任天堂の人気タイトルが集中すれば何としても発売日に入手したいと考える人がさらに増え、需要が供給数をはるかにオーバーしかねない。そうなれば「買いたいのに買えない」という状況が広がり、任天堂やNintendo Switchに対する不満が高まるだけでなく、「わざと品薄にしているのだろう」とあらぬ疑念を抱かせることになりかねない。
任天堂の歴代ゲームハードは「品薄」との戦いだったといえる。古くは初代「ファミコン」が大ブームになった際は、不人気ソフトとセットでないと本体を売らない「抱き合わせ」で販売する小売店が続出し、任天堂に不満が寄せられた。2005年に『脳トレ』でニンテンドーDSが大ブームになった際、当時出たばかりのニンテンドーDS Liteが手に入らない状況が長く続き、任天堂が「品薄商法では」などと批判された。最近では、小型ファミコン「ニンテンドー クラシックミニ ファミリーコンピュータ」が話題になって品薄になり、「転売目的の人は買えているのに」とSNSで不満が広がった。
もしNintendo Switchが品薄になれば、興味を持っていた人の購買意欲が薄れて商機を逃してしまうだけでなく、不満や批判につながりかねない。品薄をきっかけにNintendo Switchのイメージやブランドが低下するのを避けるべく、大ヒットが間違いない『マリオ』や『スプラトゥーン』などのタイトルをあえて本体と同時発売にしなかったのだろう。
インターネットやSNSでは「Nintendo Switchはスプラトゥーン2が発売したら買う」「マリオが出るまでは待ちでいいかな」といった声が少なからず散見され、Nintendo Switchの購入タイミングがうまく分散しているように感じられる。スプラトゥーン2のリリースは夏の予定で、Nintendo Switchの発売から4カ月は稼げることから、そのころには生産が進んで潤沢な在庫を確保できるはずだ。