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名優、高倉健さんをしのぶ

母心 俳優 高倉健

 

2012/4/20

「辛抱ばい」という母のつぶやきは今でも耳の奥に残る(06年6月精進湖にて=撮影:今津勝幸)

子どもたちも何をしに来たかが分かったそうです。情が通い始めたブタが竹のカゴに入れられ、キイキイと鳴きながら運ばれていく姿に涙が出たといいます。

 数日後、3人の子どもたちに1冊ずつ預金通帳が手渡されました。ブタを売った代金を3等分。母親はそれを通帳に入れ、子どもたちに与えたのです。そしてまた、秋になると子ブタが来る。春が来ると太ったブタが去っていく。こんな生活が10年ほども続いたといいます。百の言葉をもっても語り尽くせない大切な教えを、ブタを飼わせることで伝えた厳しさと優しさ…。これこそが、日本が失いかけている母心の原点ではないでしょうか?

■耳に残る「辛抱ばい」

母に抱かれて

 ふと、自分の母親のことを想い出してしまいます。

 今も耳の奥に残る一言は、「辛抱ばい」という母のつぶやきです。

 炭鉱の労務管理の仕事をしていた父は、満州の鉱山に単身赴任。母は4人の子どもを抱え、孤軍奮闘していました。特に小さい頃から体が弱く、8歳の時、結核の一歩手前の肺浸潤という病にかかった私は、人一倍の苦労をかけてしまいました。私は母親をひとり占めにしてしまったのではないだろうか? ふたりの妹たちへのそんな負い目が、今も残っています。

 息子の映画は欠かさず見ていたのに、とうとう1本も褒めてくれなかった母…。

 「あんたが雪の中を転げまわるのは切ない」

 手紙にはいつも、そう綴(つづ)ってありました。

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