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野地秩嘉
著者のコラム一覧
野地秩嘉ノンフィクション作家

1957年、東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務などを経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュや食、芸術、文化など幅広い分野で執筆。著書に「サービスの達人たち」「サービスの天才たち」『キャンティ物語』「ビートルズを呼んだ男」などがある。「TOKYOオリンピック物語」でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。

<第19回>面白い映画ではなくいかに高倉健のいい絵を撮るか

 池部良、田中邦衛、小林稔侍は高倉健が安心して演じられる相手役であり、一方、森繁久弥、三木のり平、勝新太郎、吉永小百合といったキャストは高倉健を発奮させる人たちだ。前置きが長くなったけれど、「網走番外地」は第1作のヒットにより、シリーズ18本となった映画だ。シリーズを通じて、高倉健が信頼する俳優たちが共演している。田中邦衛、嵐寛寿郎、由利徹といった達者な人たちがリラックスして演技している。

 物語は囚人が手錠のまま脱獄するアメリカ映画「手錠のままの脱獄」から着想を得たもの。本作は石井輝男が監督だが、シリーズのうち、6本のメガホンを取った降旗康男監督はこんな思い出を語る。

「『網走番外地』を監督していた時、当時の東映幹部から『最初と最後に健さんの歌が付いてて、立ち回りがあれば途中はどうでもいい』と言われました。それを聞いた時は憤慨したけれど、映画館で『網走番外地』を見た時、その言葉はある意味で真実だなと思いましたねえ。映画が始まってギターがボローンって鳴りだしたら、拍手。その後、観客の何人かは居眠りをしてしまうんですよ。それがラストシーンになって健さんが命を投げ出す頃には起きだしてきて、『待ってました』とあちこちから声をかける。観客がスクリーンに向かって声をかけるなんてことはそれまでにも、それ以降にもありえないことです。それほど支持された俳優なんて、ひとりもいないんですよ」

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