1984年にレーガン米大統領が2期目を勝ち取った翌日、米ハーバード大学博士課程の学生が2冊目の著作「ザ・ポリシーゲーム」を出版した。同著は強欲な利益団体と間違った考え方を信じる連中が米国を「成長、繁栄できないように導いた」と指摘し、解決策には現実主義が必要だと論じた。
その学生はカリフォルニア大学教授になり、20日、ホワイトハウス入りした。ピーター・ナバロ氏だ。対中強硬派で知られ、通商問題でトランプ大統領を支えるブレーンとして新設された国家通商会議を率いる。同氏は中央銀行以外で働く経済学者として世界で最も影響力を持つかもしれない。
■自由貿易を称賛していた過去
ナバロ氏は以前、自由貿易支持者だった。先の本では一章を割いて自由貿易を称賛し、81年に日本に自動車輸出で自主規制を強いたレーガン大統領の保護主義を「危険で悪質」と断じた。ただ、自由貿易への懸念の片りんも見せた。外国との競争で仕事を失う労働者への補償拡大と、多国間による厳格な貿易ルールの成立を求めた。
その数十年後、中国への関心を深めた後、変節したようだ。中国に至るまでの道のりは長かった。ナバロ氏の研究対象は幅広い。企業が慈善団体に寄付する理由、エネルギー政策、オンライン教育と様々だが特徴が2つある。1つは抽象的概念より現実世界の問題を好む点だ。米同時テロの数カ月後に、テロによる経済的損失を試算した。著作物は多いが、一流の学術誌で発表された論文はない。
第2の特徴は所得分配への関心だ。多くの経済学者は富裕層と貧困層の格差に関心を示すが、「常に幅広い中間層に注目していた」と同氏と論文を共同執筆したことがあるリチャード・カーソン氏は言う。そうした関心が、ナバロ氏を政治に引き込んだ。90年代には民主党から何度か出馬したが、すべて落選した。
トランプ氏による起用につながったのは彼の中国に関する最近の研究だ。この10年で中国の経済的、軍事的台頭の危険について著作を3冊出版。2冊目の「中国がもたらす死」は2012年にドキュメンタリー映画になった。そこでは中国からの輸入品との競争に苦しむ地域社会を巡り、シャッターが下りた米国の工場と中国の搾取工場の映像が対比されている。
ナバロ氏の対中批判は過激ではない。中国を為替操作国と批判するが同国は15年以降、ドル売り・人民元買いに転じている。中国が自国市場へのアクセスを与える条件として米企業に知的財産を渡すよう強いる慣行に怒り、中国企業が米国より緩い規制下で環境を汚染し、劣悪な環境で労働者を使い、往々にして政府の補助金を得て輸出品を生産している点を痛烈に批判する。後者の指摘は正しい。
つまりナバロ氏は、保護主義者というより中国の重商主義に反対しているだけともいえる。06年には、中国製造業の米国に対する競争優位性の41%は不公平な貿易慣行によるとの試算を出した。様々なインタビューで、この数字がトランプ氏が中国製品にかけるとしている45%の関税とほぼ一致すると指摘している。
だがこの解釈では、貿易赤字などを巡るナバロ氏の他の人と異なる見解を説明できない。中国の01年の世界貿易機関(WTO)加盟後、米国では数百万人分の製造業の雇用が消えると同時に貿易赤字が爆発的に拡大した。同氏は、この貿易不均衡が00年以降の米国の成長鈍化の原因だと主張する。