昨年11月9日、トランプ米大統領の誕生が判明した時、防衛省がまず動いたのは、米空母艦載機の陸上離着陸(FCLP)候補地に挙げられていた馬毛(まげ)島の買収に向けて、地権者との交渉を本格化させたことだった。
「日本は在日米軍の駐留費をもっと負担すべきだ!」
大統領選の期間中、一貫してこう主張してきたトランプ氏だけに、日本政府としても誠意を見せる必要がある。その際、最適なのはこれまでにも交渉を繰り返し、準備の整っている馬毛島の買収だった。
「FCLPは、パイロットの技術向上に欠かせないが、タッチ&ゴーと呼ばれる離着陸訓練のため大きな騒音が発生、どこからも歓迎されない。馬毛島は無人島のうえ、米軍基地からも近い。これを基地にできれば、確かに在日米軍への大きな貢献となる」(軍事評論家)
馬毛島は、数奇な運命を辿った島だ。鹿児島県種子島の西方12キロの南シナ海に浮かず面積8・2キロ平方メートルの無人島。これまでに、石油備蓄基地、一大レジャーランド、防衛庁(当時)レーダー基地など幾つもの構想が、生まれては消えた。
それが、防衛省向け飛行場として蘇るのは、島を95年に買収した砕石の製造販売などを営む立石建設グループ(本社・東京)が、憑かれたように飛行場建設を進めたからだ。
同グループの立石勲代表がインタビューなどで語ったところによれば、「これまでに150億円を投資した」ということで、確かに島には、南北4200メートル、東西2400メートルの滑走路が設置されている。
もちろんFCLP基地にするには、軍用に耐えうる精緻な滑走路工事が必要だが、条件が整っているのは事実であり、これまでにも防衛省と立石氏は何度も交渉を重ねてきた。それがようやく本格化、3月末をメドに価格を算定、買収交渉に入る。
だが、買収にあたっては、二つの障害がある。
ひとつは買収価格。
他の事業の収益を注ぎ込み、執念で島を整地、滑走路を建設して150億円を投じたのが事実だとしても、それは立石氏の“思惑”によるもので、防衛省の評価は別。島の価格に島に積まれた販売用の土砂・砕石などを加えても、立石氏との隔たりは大きいという。
二つ目は、無理がたたった立石建設グループの借金問題。
都内や川崎などに持つグループの資産には限度枠いっぱいの抵当権が設定されている。唯一、立石氏の“夢”だった馬毛島は、きれいな状態を保っていたのだが、昨年1月25日、極度額5億円の根抵当権が仮登記された。
権利者は都内町田市に住むK氏。K氏と立石建設グループは、2011年6月に始まった資金提供以降、良好な関係を保っていたものの、借金問題がこじれて昨年末以降、民事刑事で争う関係になっている。
争いのないのは、K氏に対して立石建設グループが借金をしていること。最初の出会いは、仲介業者のO氏がK氏の兄を通じて立石氏への資金繰りを要請。この時2億円、続けて1億5000万円が貸与され、後に4億円の手形がK氏に振り出された。
刑事事件に発展するのは、昨年11月28日で、町田署は、この手形が恐喝によるものだという立石氏の被害届けを受理、K氏を恐喝容疑で逮捕した。10年以上前に堅気となっているものの、K氏は広域暴力団極東会系組織の元組長。被害届が受理されやすい環境にあった。
だが、検察は不起訴処分。逆にK氏は誣告罪で立石氏を訴えたものの、これも不起訴処分。双方の争いは、民事に移り、原告をK氏、被告を立石建設グループとする手形訴訟と、5億円の根抵当権仮登記を抹消せよという原告立石建設グループ、被告K氏の裁判が、東京地裁で同時進行している。