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情報戦の裏側

アパホテル炎上騒動、謝罪すべきでない3つの理由(下)

窪田順生 [ノンフィクションライター]
2017年1月26日
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>>(上)より続く

ホットなタイミングだった
南京事件

 まず、ひとつは中国ネットユーザーたちが、「Kat&Sid」が投稿をするおよそ2ヵ月前、海外企業を相手どって大きな「戦果」を得た、という自信だ。

 アメリカの高級百貨店ノードストロームの直営店で、「ハピネス」という商品名のTシャツが売られていた。そこには、中国映画「南京!南京!」から切り出したと思しき、旧日本軍の軍人が中国の一般市民を殺害している様子がプリントされ、横にはベンチに座る白人女性の姿も加えられ、「なぜ無関心のままなのか?」というメッセージが添えられていた。

 日本人からもいろいろ言いたいことがあるだろうが、現地の中国系住民がこれに猛烈な抗議をして、中国のネットユーザーはSNSでノードストロームを攻撃。「反戦や反無関心を訴えたかった」というデザイナー側の釈明も虚しく、謝罪と商品取り下げとなった。

 この「戦果」が、南京事件に関する「誤った認識」を糾していくと意気込む中国ネットユーザーたちを大いに勢いづかせたというのは容易に想像できよう。

 そして2つ目が、「Kat&Sid」が南京ネタをアップしたのが「節目」だということである。

 日本人にはあまり知られていないが、実は中国では12月13日が南京事件の国家追悼日とされている。「南京大虐殺記念館」で国家追悼式が開かれるのはもちろんのこと、全国の小中学校では、日本兵たちに無残に殺された30万人を悼み、30本のロウソクを灯したり、いかに日本が憎いかというスピーチコンクールが開かれる。つまり、12月は中国が「日本への憎しみ」に染まるタイミングなのだ。

 さらに言えば、17年は南京事件から80年という節目の年ということで、安倍首相に「南京大虐殺記念館」で、30万人の被害者を前に頭を垂れさせる、と意気込んでいる中国人は少なくない。中国からすれば、アメリカの大統領が広島に訪れて献花したのをそんなに喜んでいるのなら、お前らも南京にきて詫びろ、というロジックなのだ。

 そんなタイミングだったら、アパ会長の本が炎上するのもしょうがないかと思うかもしれないが、実はこの2つだけなら、今のような大騒ぎになったかは疑問である。

 それが3つ目の要素である。告発映像を投稿した「Kat」がアメリカ人女性ということだ。

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窪田順生 [ノンフィクションライター]

くぼた・まさき/テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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できれば起きてほしくない「不祥事」だが、起きてしまった後でも正しい広報戦略さえ取れば、傷を最小限に済ませることができる。企業不祥事はもちろん、政治家の選挙戦略、芸能人の不倫ネタまで、あらゆる事象の背後にある「情報戦」を読み解く。

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