広がる梅毒。性風俗の規制緩和と無関係ではない(写真と本文は関係ありません)

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 「昔の病気」と思われていた梅毒が猛威をふるっている。国立感染症研究所によると、昨年1年間の患者の報告数は4518人で、1974年以来初めて4000人の大台を超えた。なかでも増えているのが20代女性の感染だ。診察にあたる医師も「目に見えて患者数が増えている」と重視する。激増の背景には諸般の事情が…。

 梅毒は主に性行為を介し、梅毒トレポネーマという細菌が体に入ることで引き起こされる。症状は出たり治まったりを繰り返し、初期は性器や唇などにしこりやリンパ節の腫れが出て、進行すると全身に赤い発疹ができる。妊婦が感染すると死産や乳児の病気につながることがある。

 感染研が昨年1月〜11月の患者の傾向を分析したところ、約3割が女性。若い世代での増加が目立ち、20代が約半数を占める。1万人以上の患者報告があった67年以降、治療薬の普及などで減少し、近年は1000人以下が続いていたが、2011年以降再び増加し、約40年前の水準に逆戻りした。

 婦人科の池袋クリニック医師、稲垣徹訓(てつのり)氏は「風俗産業で働くセックスワーカーの低年齢化が、若い女性患者増加の理由の1つだろう」と話す。

 風俗店の業態の変化も影響を及ぼした疑いがあると指摘する。

 「近年はセックスワーカーをあっせんする業者(デリヘル)が増加している。店舗型の業者に比べて感染症の検査を徹底できていない面もあるのではないか」(稲垣氏)

 感染する恐れがあるのは“プロ”の女性ばかりではない。

 「昔は、若い女性は同世代と性交渉をしていたが、最近はインターネットなどを介して年齢の離れた男性と関係を持つ人もいる。年上男性が実は梅毒に感染していて、女性にうつしてしまうケースがある」

 男女ともに、症状の「1期」はしこりなどができるものの感染に気付きにくく、未治療でいるケースが多い。その間、不特定多数と性交渉を持てば、感染者は増加の一途をたどることになる。

 稲垣氏は「去年の春先頃から、女性患者が非常に増えている。以前なら多くても1カ月に1人程度だったが、いまは診療すると月に2〜3人はみつかる」と危機感を持つ。体に発疹ができる「2期」で感染の疑いを持ち、来院するのがほとんどという。

 梅毒と聞けば、菌が脳を侵したり、鼻がもげるといったイメージを持つ読者も多いだろう。「そうした症状は『3期』に入るが、そこまで重篤な患者はいまの日本ではほとんど見ない」と稲垣氏。とはいえ、恐ろしい病気には間違いない。

 予防するには、正しく避妊具を使うに尽きる。

 「女性がピルを飲んでいるので、膣内射精する男性が増えているが、これでは性感染症は防げない。性交渉の際はもちろん、オーラルセックスのときもきちんとコンドームを使用することだ」(稲垣氏)

 それでも感染してしまった場合は、アモキシシリンという内服薬で治療することになる。「朝昼晩2錠ずつ服用することで重篤患者でない限り、通常は4週間から8週間で完治する」(同)

 女性も男性も、身に覚えがあれば早めの受診が肝心だ。