積み上がる国と地方の借金に歯止めをかけ、将来世代へのつけ回しを抑えていく。そのために政府が掲げる財政再建目標の達成が、さらに遠のいた。

 もともと高い目標であり、達成を危ぶむ声は政府内外でますます強まっている。しかし、安倍首相は国会答弁などで「必ず実現する」と繰り返す。

 首相は経済成長による税収増を強調するが、それだけでは達成はおよそ見通せない。にもかかわらず、歳出の抑制・削減や、消費税を中心とする増税には及び腰である。

 どうやって実現するのか、決意ばかりで具体的な説明はない。あまりに無責任だ。

 財政再建の目標は、基礎的財政収支(PB)を20年度に黒字化することだ。PBが黒字になれば、過去の借金の元利払い費を除く政策経費を、その年度の税収などでまかなえたことになり、借金の膨張に一定の歯止めがかかる。

 内閣府の試算では、16年度は国と地方の合計で20兆円の赤字だ。安倍政権が頼みとする「経済再生ケース」でも、一定の前提を置いてはじくと20年度に8兆円余の赤字が残る。赤字額は半年前の試算から3兆円近く増えた。足元の税収が落ち込んだためだ。

 そもそも経済再生ケースは、19年度以降に成長率が実質で2%以上、名目では3%以上と、バブル崩壊前の水準に高まることが前提になっている。現状からかけ離れ、それだけ税収も多めに見積もられる構図である。

 目標と実態の隔たりに対し、政権の危機感は乏しい。17年度の当初予算案でも、歳出への切り込みは甘く、16年度に落ち込んだ税収の急回復を見込んだ。その通り税収が上向けば、PBはわずかに改善することになるが、財政再建への一歩とはとても言えない。

 忘れてならないのは、日本銀行のマイナス金利政策で国債の金利が低く抑えられ、借金にともなう国や地方の負担が増えにくくなっていることだ。通常の市場なら、国債の発行が増えれば価格が下落(利回りは上昇)する「悪い金利上昇」を招く恐れがあるが、そうした財政への警告機能は金融政策によって封じ込められている。

 だからこそ、政府が財政再建へのしっかりした目標と計画を決め、着実に実行していく姿勢が重要になる。ところが政権は、目標の堅持を叫びながら、経済成長と税収増を当て込むばかりで、計画が見えない。

 政府への信認が損なわれかねない事態である。