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視点・トランプ時代/1 米露の接近 世界の流動化招くのか=論説委員・大木俊治

 米国のトランプ新大統領が、就任演説で「すべての国が自国の利益を第一に考える権利がある。我々は自分たちの生活様式を他人に押しつけない」と宣言した。

     これはロシアのプーチン大統領が米国に求めてきたことだ。

     プーチン氏は、米国が「自由と民主主義」を旗印にロシアの勢力圏や他国に介入してきたと批判してきた。歴史と伝統に根ざした他国の価値観や国益を尊重し、米国方式の押しつけはやめるべきだという主張である。

     トランプ氏は、ロシアと対立してきたオバマ前大統領との違いを強調したのだろうが、プーチン氏は融和のサインとして利用するかもしれない。ロシアがサイバー攻撃で米大統領選に介入したのではないかという疑惑がくすぶる中での、「米露協調」の兆しである。

     オバマ前政権下で極度に悪化した米露関係が改善に向かうこと自体は悪いことではない。だが「新しい米露関係」の展望は楽観できない。

     米国は冷戦終結後、「自由と民主主義」という価値観で結びついた欧州や日本との同盟関係を軸に世界を主導してきた。その「価値観外交」に対し、ロシアや中国は異議を唱えてきた。

     トランプ氏が、理念ではなく損得を優先する「取引外交」への転換を宣言したことで、この構図は変わるかもしれない。

     トランプ氏は就任演説で、イスラム過激派のテロに対抗するための「新しい同盟」に言及した。ロシアを念頭に置いたとは考えにくいが、一昨年9月にプーチン氏が国連総会で行った演説と符合するのが気になる。

     プーチン氏はこの時、ウクライナ問題での対立を棚上げし、過激派組織「イスラム国」(IS)に対抗するための共闘を米国に呼びかけた。

     その際に言及したのが、第二次世界大戦後の国際秩序を指す「ヤルタ体制」だ。大戦末期に米英とソ連が価値観の違いを超えて手を結び、大国間の取引で戦後欧州の東西分割を密約したことを指す。

     ロシアを代表する国際政治学者のトレーニン氏は、プーチン氏が「第2のヤルタ」を目指していると指摘し、米国の影響力が後退することで、当時のように大国同士が力を背景に世界の秩序を決める時代に戻りつつあると警告する。

     対ISのように共通の利害があれば、米露は手を組むかもしれない。だがそれは、価値観を共有する「同盟」とは違う不安定な関係だ。米露間の取引外交が、世界をさらに流動化させることを懸念する。

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