ここ一番での弱さを乗り越え、ついに最高位にたどり着いた。
大相撲初場所で悲願の初優勝を果たした大関・稀勢の里について横綱審議委員会(横審)は横綱に推薦することを満場一致で決めた。15歳で角界入りして15年、大関になってからも5年を要した。「苦労人横綱」の誕生を祝福したい。
日本出身力士としては1998年夏場所後の第3代若乃花以来、19年ぶりとなる横綱昇進となる。
白鵬、日馬富士、鶴竜の3横綱はいずれもモンゴル出身。不在が続いた日本出身横綱の誕生が歓迎されるのは自然だろう。だが、不祥事によって相撲界への厳しい目が注がれる中で、外国出身者が「国技」を支えてきたことは忘れてはならない。
早くから大関、横綱を期待されていた。中学卒業時すでに身長180センチ、体重110キロの堂々とした体格だった。順調に番付を上げ、平幕だった2010年九州場所では白鵬の連勝記録を63で止めた。相撲史に残る一番として語り継がれている。
だが、大関昇進後は足踏みを繰り返す。優勝に準じる成績を10回以上残しながら、ここ一番で勝ち切れない。綱取りには6度失敗した。
精神面の弱さが指摘されたが、そこで腐ってしまわず、一層稽古(けいこ)に励んだことが実を結んだ。
真っ向勝負を貫いている。初場所でも立ち合いで一度も変化しなかった。初土俵以来、休場したのは1日だけ。勝っても負けても表情を変えないところも人気の秘密だ。
横審は「大関で2場所連続優勝か、もしくはそれに準じる好成績」を昇進の内規として定めている。そのため「初優勝での昇進は甘いのではないか」との声もある。
だが、昨年の九州場所では3横綱に土をつけ、初場所では千秋楽の結びの一番で白鵬の押しを土俵際でこらえ、逆転のすくい投げを決めた。
昨年の年間勝利数「69」が最多となるなど近年は実力に加え、安定感を増している。
来場所から4横綱時代が始まる。長らく無敵を誇った白鵬は4場所続けて優勝を逃すなど力に陰りが見え、日馬富士、鶴竜は故障が目立つ。高安や御嶽海ら若手の台頭もあって勢力図には変化の兆しが見えるだけに新横綱への期待は大きい。
入門を勧誘した師匠で、今は亡き鳴戸親方(元横綱・隆の里)は「たぐい稀(まれ)なる勢いをつくってほしい」との願いをしこ名に込めた。
30歳での横綱昇進を懸念する声に対し、本人が「体も元気だし、心も元気。まだまだ強くなる」と話しているのは頼もしい限りだ。その言葉通り、さらに精進を重ね、角界のけん引役を務めてほしい。