【ソウル=加藤宏一】旧日本軍の従軍慰安婦問題を論じた著書「帝国の慰安婦」で元慰安婦の名誉を傷つけたとして、在宅起訴された朴裕河(パク・ユハ、59)世宗大学教授に対する判決公判が25日に開かれ、ソウル東部地裁は無罪判決(求刑は懲役3年)を言い渡した。検察が名誉毀損と主張した「慰安婦と日本軍が同志的関係にあった」などとの記述について、判決は「意見の表明にすぎない」と指摘した。
検察は「歴史的事実を歪曲(わいきょく)し被害者の名誉を傷つけた」として35の記述を名誉毀損と主張していた。判決はこのうち30は「被告人が主観的に意見を表明したにすぎない」と指摘。ほかの3つは事実関係の明示とした。
「朝鮮人慰安婦の中には自発的な意志で慰安婦になった人もいた」など2つの記述は名誉毀損にあたるとした。ただ特定の人物を指しておらず、罪としては成立しないと判断した。
無罪判決が下されると、法廷の傍聴席に座っていた元慰安婦の女性は「(朴教授は)親日派だ。有罪にすべきだ」などと叫び警備員に制止された。女性は記者団の取材に「控訴して罪を明らかにする」と述べた。
一方、朴教授は「名判決だと思う。裁判官が合理的に事態を見て判決を下したことに感謝する」と述べた。
同書を巡っては元慰安婦ら11人が2014年6月に朴教授を告訴した。ソウル東部地検が捜査に着手し、15年11月に朴教授を在宅起訴した。この間、ソウル東部地裁は15年2月に元慰安婦らが同書の出版禁止を求めた仮処分申請の一部を認め、一部表現を削除せずに出版することを禁じる決定を下した。元慰安婦の女性らによる損害賠償請求訴訟でも16年1月に名誉毀損を認定し、朴教授に賠償を命じた。
朴氏の在宅起訴に関しては、韓国の大学教授ら有識者が学問や表現の自由への公権力の介入だとして抗議していた。従軍慰安婦問題で旧日本軍の関与を認める談話を発表した河野洋平元官房長官、過去の植民地支配を認めてアジア諸国に謝罪談話を出した村山富市元首相らも、起訴を批判する声明を発表していた。