コラム

中国の過剰生産能力問題の元凶は大手国有企業

2017年01月25日(水)17時20分
中国の過剰生産能力問題の元凶は大手国有企業

中国の閉鎖された鉄鋼工場(河北省唐山) Kim Kyung Hoon-REUTERS

 以前このコラムで、中国鉄鋼業における過剰生産能力問題は、経営効率の悪い国有大企業の拡大を支援する誤った政策の結果起きたものである、という主張をした。その後、昨年12月下旬に中国の河北省唐山市で民営鉄鋼メーカー2社を訪れる機会があったが、やはり鉄鋼業の過剰生産能力問題とは国有大企業の問題であり、端的に言って、国有大鉄鋼メーカーを整理し、その生産能力を縮小すれば問題は解決に向かうはずだとの思いを新たにした。

世界生産の半分を生産

 中国の鉄鋼業の過剰能力問題はいまや世界的な関心事である。なにしろ一国だけで世界の鉄鋼生産量の半分に当たる8億トンも鉄鋼を作っている。でも国内での鉄鋼需要がそんなにないので、2015年には日本全体の鉄鋼生産量を上回る1億1240万トンの鋼材を輸出した。中国から安価な鋼材が大量に輸出されるとアメリカの雇用が奪われるとして、アメリカは盛んにアンチダンピング課税を行い、日本の鉄鋼メーカーも輸出市場を中国に奪われてしまうと苛立っている。

 そうした外国からの厳しい目を中国政府も気にしている。中国政府の言い分を代弁するとこうなろう。「我々も生産能力の過剰の問題には長年悩んでいるのだ。2009年には『鉄鋼産業調整・振興計画』という産業政策を出し、生産能力の過剰に対して強い警告を発した。だが、中国には鉄鋼メーカーが何百社もあるので我々の政策を国のすみずみにまで徹底することは難しい。日本のように新日鐵住金とJFEスチールなどの大手に業界が集約されている体制は大変うらやましい。我々も宝鋼集団、鞍鋼集団、武漢鋼鉄など大手国有鉄鋼メーカー数社に産業を集約していく方針を2009年の産業政策のなかで打ち出し、金融などを通じて大手企業の拡大を支援してきた。2016年にはついに世界5位の宝鋼集団と世界11位の武漢鋼鉄を合併させるという大手術にも踏み切った。しかし、中小民間メーカーは我々の言うことを聞かず、生産拡張を勝手に進めてしまう。」

 こういわれると何となく中国政府に同情したくなってくるかもしれない。しかし、年間生産量が8億トンという人類史上他に例をみない規模になった中国では、大手数社に業界が集約されるということは土台無理だということを認識する必要がある。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

ニュース速報

ワールド

メイ英首相がEU離脱交渉白書公表へ、議会に配慮

ビジネス

焦点:1月日銀国債買入、12月比減額の公算 金利重

ビジネス

ECBの政策、従来より伝達が遅行しながらも機能=調

ビジネス

中国人民銀副総裁、外貨準備活用した人民元の安定維持

MAGAZINE

特集:トランプの読み解き方

2017-1・31号(1/24発売)

第45代米大統領に就任したドナルド・トランプは引き裂かれたアメリカと困惑する世界をどこへ導くか

人気ランキング

  • 1

    東芝が事実上の解体へ、なぜこうなったのか?

  • 2

    アパホテル炎上問題、中国観光局が旅行代理店にボイコット呼び掛け

  • 3

    アパホテルを糾弾する前に中国共産党がやるべきこと

  • 4

    アパホテル炎上事件は謝罪しなければ終わらない

  • 5

    トランプ、移民制限に関する複数の大統領令に25日一…

  • 6

    大統領最後の日、オバマはパレスチナに2億ドルを贈った

  • 7

    「ヒトの教育レベルが遺伝子上で劣化している」とい…

  • 8

    TPP離脱に米農業団体が反発 アジア市場を中国に奪わ…

  • 9

    弁護士グループがトランプ大統領を提訴、外国金脈を…

  • 10

    銃で撃たれても「自動的に」治療してくれる防弾チョ…

  • 1

    東芝が事実上の解体へ、なぜこうなったのか?

  • 2

    ドナルド・トランプ第45代米国大統領、就任演説全文(英語)

  • 3

    アパホテル炎上事件は謝罪しなければ終わらない

  • 4

    アパホテル書籍で言及された「通州事件」の歴史事実

  • 5

    テレビに映らなかったトランプ大統領就任式

  • 6

    CIAを敵に回せばトランプも危ない

  • 7

    世界初の「海に浮かぶ都市」、仏領ポリネシアが建設…

  • 8

    銃で撃たれても「自動的に」治療してくれる防弾チョ…

  • 9

    アパホテル炎上問題、中国観光局が旅行代理店にボイ…

  • 10

    日中間の危険な認識ギャップ

  • 1

    オバマ米大統領の退任演説は「異例」だった

  • 2

    キャリー・フィッシャー死去、でも「2017年にまた会える」

  • 3

    「知能が遺伝する」という事実に、私たちはどう向き合うべきか?

  • 4

    東芝が事実上の解体へ、なぜこうなったのか?

  • 5

    トランプ当選初会見でメディアを批判 ツイッターな…

  • 6

    ドナルド・トランプ第45代米国大統領、就任演説全文…

  • 7

    日本の制裁措置に韓国反発 企画財政省「スワップ協…

  • 8

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 9

    韓国ユン外交部長官「釜山の少女像は望ましくない」

  • 10

    安倍首相の真珠湾訪問を中国が非難――「南京が先だろ…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本の観光がこれで変わる?
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 臨時増刊

世界がわかる国際情勢入門

絶賛発売中!