出足こそ覚束なかったが、米アマゾンの音声認識技術「Alexa」がテクノロジーの世界で大きな成功を収めようとしている。
米電子商取引大手のアマゾンが人工知能に基づく音声アシスタント「Alexa」を市場投入したのは、同社が大きな躓きを経験した直後のことだった。同社は「Fire」を引っ提げてスマートフォン市場での成功を目指した。だが、その目論見は外れ、2014年末には1億7000万ドル(約194億6000万円)に上る損失処理 を強いられた。アナリストはFireを史上最悪のスマホだと酷評した。
Fireの失敗は、自社のモバイル・プラットフォームを開発するとのアマゾンの夢を打ち砕くかに見えた。アップルがiPhoneを世に送り出し、アルファベット(旧グーグル)が検索エンジンGoogleで世間を席巻するのを見て、アマゾンは、ライバル企業の技術を介すことなくユーザーと直接つながる方法を必死に探した。
アマゾンはFireでやろうとしていたことをまさにAlexaで実現した。Fireと異なるのは形態だけ。これは、Alexa が発表された時にはほとんど誰も予想しなかったことだ。画面で操作する必要はない。Alexaは完全に音声で操作できる。
Alexaを採用した初めての製品「Echo」をアマゾンが市場投入したのは、Fireの損失を処理した2週間後のことだ。Echoは音声で制御でき、一般大衆に広く訴求する力を持つスピーカーの第1号となった。発売後2年の間に、Alexaは山火事のごとく猛烈な勢いで普及した。今やこの音声技術は冷蔵庫をはじめとする何十もの家電製品に組み入れられている。自動車に搭載される日も近い。
アマゾンの願いは、Alexaの背後で稼働するデジタルマインド「Alexa Voice Services(AVS)」が、音声による操作が必要とされるあらゆる領域で活躍することだ。
Alexa普及のためには損失もいとわない
アマゾンはこれまでも、以前には考えられなかったビジネス分野で成功してきた。その最たるものが、クラウドコンピューティング・サービスのAWS(Amazon Web Services)だ。10年前に同サービスを導入して以降、アマゾンは先行者利益を余すところなく活用し、今やクラウドコンピューティングを提供する世界最大の企業にのし上がった。
Alexaでこれと同様の成功を収めるのはさほど容易ではない。だが、アマゾンはすでに莫大な経営資源をこのプロジェクトに投入している。米投資銀行エバコアによれば、アマゾンはAlexaの普及を促すため、Alexaが稼働する端末の価格を損益分岐点を下回る水準――ハードウエアのコストを1~2割下回る水準――に設定している。同社はAlexa端末がどのくらい売れたのか、明らかにしていない。
アマゾンはまた、AVSの無償利用を許可している。開発者は、スピーカーやマイクを内蔵するさまざまな機器にAlexaを組み込むことができるわけだ。Alexa Fundを設立し、Alexaを利用する新しいアプリの開発を進める開発者に資金まで提供している。
さらに、アマゾンはAlexaに膨大な経営資源を注ぎ込んでいる。再びエバコアの推定によれば、アマゾンは2016年にAlexa関連で3億3000万ドル(約377億8000万円)の損失を計上した。この額には、端末に関わる純損失や、人件費などが含まれる。さらに2017年には、損失額はほぼ2倍の6億ドル(約687億円)超に膨らむと、エバコアはみている。